私好みの新刊 2025年12月
『しっぽ学』 東島沙弥佳/著 光文社
「しっぽ学」という聞きなれない題名にまず引かれる。こんな変わっ
た研究をまじめにしている人がいる。著者の経歴を見ると文学部卒業と
ある。発掘をするいるうちに、考古学に興味がわき動物の骨に魅了された。
やがて、しっぽの骨に関心が移って骨の研究に興味がわくと理学部に再
入学したという変わった経歴の持ち主。既成の「〇〇学」に当てはまら
ないが、「動物や植物を対象として行うのならば・・生物学的研究である。」
として「しっぽ学」を立ち上げた。
この本は、著者のそうした経歴などエッセイを交えて動物のしっぽ学
を論じている。はたして人間にもしっぽがあったのか。興味芯々の書で
ある。「しっぽ学」に関する書き込みのみを拾っていくと、まず出てく
るのは「脊椎動物のしっぽ」とは。「体幹の延長で後ろにのびている尾
で肛門より後ろにのびているもの」と定義する。しっぽを構成する骨の
名称もはっきりと図示されている。背骨との付け根は「仙骨」、尾の部
分は「尾推(木へん)」というらしい。霊長類にもしっぽのない動物がいる。
人間のしっぽが無くなったのは進化のあかしという。1,800万前の哺乳類
かららしい。著者は、海外の博物館も使って綿密な資料調査を繰り返し研
究を深めた。実は今のヒトにも一時はしっぽが生えていた時期がある。
胎児期だ。受精卵から胎児が成長している写真が紹介されているが、写
真をよく見ると途中までしっぽらしい形跡が見える。当然ながら、しっ
ぽの形も遺伝子が関係している。「しっぽをかたち作る遺伝子」も見つ
かっているという。
後半は、しっぽに関する雑学集である。「わたしたちは生物学的な
「ヒト」であると同時に人間特有の考え方を備えた「人」でもある。」
という。著者の主張をもとに人文的な背景を寄せ集めている。それがまた
おもしろい。犬や猫のしっぽの動きも何かの表現の証。これから動物園に
行ってもその動物のしっぽの動きをよく観察しよう。
2024年8月 860円
『もしもハチがいなくなったら?』横井智之著 岩波ジュニア新書岩波書店
平易な文でわかり良く書かれているので、小学生高学年から読めるので
はないか。ぜひ、子どもたちにも読んでほしい一冊である. 。
「あとがき」に「「もしもハチがいなくなったら」とは、決して絵空事
ではなく、現実味をもった状況といえるでしょう。」と書かれている。もし、
ハチがいなくなったら動物は生きていけないのでこれは一大事。今年の暑い
夏、昆虫類は少なく感じたのは私だけだろうか。この本は、とりわけハナバ
チについてわしく書かれている。まずはハナバチ仲間の紹介がある。ハナバ
チにはミツバチやハキリアリなど約15種以上もいる。ハナバチの特徴はな
んといっても体全体に生えている「毛」。その毛が花粉を運ぶ手助けとになる。
意外なのはハナバチの多くは地中に巣をつくるとか。あまり見たことないが
注意して見て見よう。その他、ハナバチの特徴など含めてハナバチ記事は60
ページにも及んでいる。次は「人のくらしを支えるハナバチ」。何といっても、
作物生産の支えになっているのは、みなさんご存知の通り。特にミツバチは私
たちに甘い蜜を届けてくれる。よく言われているのがハウス栽培ではよく利用
されるマルハナバチ類。果樹園などではハナバチのお世話になっている。野菜
類もハチが来ないと結実しない。日本でのハナバチなどによる「送粉サービス」
の価格は2013年度で約4700億円にも達するとか。イチゴなどいい形に食べら
れるのはハナバチのおかげ。次は「消えるハナバチたち」。懸念されているこ
とが現実に起こりつつある。アメリカなどではハナバチ類も個体数を大きく減少
しているとか。考えられる原因としては、品種改良のおかげでハチたちの餌とな
る花粉や花蜜が少なくなったこと、病気や地球温暖化、農薬の増加などもある。
「ハナバチたちと支え合う」システムの大切なことを訴えて終わっている。
2025年3月 880円