書評        『富士山大ばくはつ』  かこさとし著           表紙写真
           『地球のはなし』  小森長生著

      
                     「1999,10」へ

            
富士山大ばくはつ』

           かこさとし著
  ちょっと風変わりな本が出た。久々のかこさとしさんの科学絵本である。
  題名から見ると、ちょっとSFっぽい見方をされるかもしれないが、富士山の生成史と富士の
自然の姿が書かれた科学の本といえる。いずれも、かこさとしさん得意の絵本タッチで楽しく描
かれている。題名にある「大ばくはつ」に大きな意味を持つ。
  富士山の生成史を語るのに、地球の誕生から語るのは、総合的視野を大切にするかこさん
らしい見方である。ここで大切なマントルやプレートについても語られている。
  「日本列島と小御岳」の項では、いわば富士山の誕生の物語が始まる。プレートにのって南
の太平洋からやってきた島が日本列島にぶつかって富士山の元が出来た、と地球科学の大切
な概念をさらりと書いている。ここは挿し絵の力も借りて、子どもにもよくわかるのではないか。
  
 次の「古富士の出現」からいよいよ富士山の噴火の歴史が語られていく。
  「えっ、富士山って、こんなにも噴火を繰り返していたのか」
と、改めて“生きた活火山・富士山”が印象に残る。
 途中、「万葉集」などの歌をひもとき、当時の人々の富士山への熱い思いを記したり、江戸時
代の富士講や北斎、広重の版画も紹介するなど、人と自然の関わりも大切にした構成となって
いる。
 そのあとは、また富士山の自然について、溶岩、気象、川と湖、植物とこん虫、動物と鳥など
について、さらりと、そして、ときには細かく描写されている。

 最後は「富士山がふたたび噴火するとき」の項で結ばれている。大切なことは、富士山は今
も生きた火山の一つであることをみんなが認識することにあるという。        
                                      小峰書店 1300円+税
 

                          ページ初めへ
『地球のはなし』
      小森長生著
  地球に関する最近の話題を30点ほど集めた本で、現在の地球観について概略を知りたい人に
はうってつけの本といえる。
 この本で、項目として取り上げられている内容は、「地球の中はどうなっているの」「地球の核のふ
しぎふしぎ」「地球は巨大な磁石だ」「地殻の正体をめぐるなぞ」「生物の大量絶滅と大衝突」など、
地球に関するさまざまな話題にふれている。
 この本編集の重点として著者は「あとがき」で次の3点を取り上げている。
   「地球の仲間の惑星と比べてみることもだいじです。この本では、そのような広い
    視野から地球を見てきたつもりです。」
   「地球についての学問が進歩したとはいっても、まだまだわからないことだらけです。
    この本ではそうしたわかっていない問題も正直に述べました。」
  確かに、この本は地球の本ではあるが、 惑星と重ねた話が多い。「ガスと塵の雲から生まれた地
球」「火星生命から地球生命を考える」などなど。
 また、学問進展の経過も随所に書かれているが、今まだ未確認の仮説も大胆に紹介されている。
  「視野を広げて火山を見よう」では、真っ黒いままの溶岩がさらさらと流れていることや、海王星の
衛星トリトンでの窒素ガスの冷たい火山を取り上げて、「マグマは熱いものだという常識を改めなけれ
ばなってくる」などと語ったり、「地球は膨張してきたのか」では、大陸移動説とも関連づけてこの地球
膨張説を取り上げている。
   とにかく、夢多い地球の話の本である。       
    誠文堂新光社 1200円+税
               西村寿雄(科学読物研究会)
ページ初めへ