1999年11月           

かんたん科学マジック決定版』  ナイスク・サイエンスクラブ編   バウハウス  762円

  近年、ある科学手品の本が大ヒットしてから、ちょっとした実験を見せて楽しむ科学実験の
本が目につ くようになった。そのような本の中から、イラストの見やすさ、写真の的確さ、まね
のしやすさ、理屈のわか りやすさなどからみて選んだのがこの本である。B5タイプで値段も
手頃である。
 内容的には、「びんを出入りするゆで卵」「ペットボトルのトルネード」「吹かなくても消えるろ
うそく」など、 どの本にもよく出ている内容であるが、身近な簡単な材料でできるものが多い。
 この本の特徴は、やはり、いくつかの囲み記事(コーナー)にある。
 「ありがちなひんしゅく」コーナーでは、よくする失敗例が紹介されている。じっさいに、科学
実験をする場 合、こういうことが参考になる。あわせて「裏ワザ」では、うまく成功させるため
のテクニックが書かれている。
ついでに「バリエーション手品」を見ると、さらに広がった実験(手品)もできる。
 理屈のコーナーとして、「どうしてこーなる」がある。その実験(手品)の一応のわけが書か
れている。さら に、もっと原理的に知りたい人のために「おもむろに解説したい〈法則〉や〈定
理〉とか」の項がある。
  もちろん、こうした本に紹介されているのは、ほんの科学上の実験の断片であって、これ
で科学の基本 が身に付くものでもない。この本のタイトルにあるように、手品として楽しむの
にはよい。
 ときには友達同士であるいはクラス会で、このような手品を通して心がなごむ時がもっとあ
っていいと思う。

                       
水生こんちゅうタイコウチの一年 ― 消えていくこん虫、命のすばらしさ― 
                                  湯浅政治著  大日本図書1400円 
  著者は、現職の小学校の先生で、子どもといっしょにタイコウチを観察しているうちに、一
冊の本ができあ がったという異色の本である。それだけに、親しみやすく読める。
 もう、タイコウチはよほどの山間部か郊外に行かないと見られない。その貴重な生き物の
魅力を、この本は 十分に伝えてくれている。
  目次は、「見つけた!タイコウチ」「どうしてタイコウチは動かない?」「タイコウチのえもの
のとらえかた」と 続く。
 「 タイコウチは、一度えものをとらえ たら、けっしてにがしません。どうして、体がつるつ
  る、ぬるぬる した魚や おたまじゃくしを、みごとに、とらえ ることができるのでしょう。…」
とある。秘密は、タイコウチ独特の《針の足》にあるという。なるほど、足の仕組みや食べ方
が他の虫たちと 違う。
 続いて、「交尾」「産卵」「ふ化」「自然のつながり」「脱皮」へと、話は続く。
体が固いからで作られているタイコウチも脱皮や羽化時の失敗や、天敵による補食など、
きびしい自然界の 掟が待っている。そんななかでもたくましく育つタイコウチ、そのようなば
らしい生命力のあるタイコウチも人間 が作る人工水路にはひとたまりもない。
 タイコウチのすばらしさを知ると、このタイコウチの棲めるような環境にもどすことが、人間
にとってもとても大 切であることがよく伝わってくる。
 次世代の子どもたちにこそ、たくさん読んでほしい一冊である。  
                              
西村寿雄(科学読物研究会)

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