1999年12月

『木の実』ノート      いさわゆうこ作   文化出版局 1999,9刊
 おもて表紙に「みつけてうれしい あそんでゆかいな」とあって、楽しそ
うな木の実の本である。
 木の実を紹介した図鑑類は多く出版されているが、今回紹介する本は、木
の実の特徴から利用の仕方、その木が伝わってきた由来、食べ方や遊び方に
至るまで、木の実に関する様々な情報を楽しそうなイラスト入りで紹介してい
 ふつうの植物図鑑といえば、その植物の形態に関する特徴がこと細かく書
かれているが、それたけでは初めて木の本を見る人にはなかなか親しみにく
い。その点、この本は「木の実」をぐっと身近に感じさせる。漫画チックな
イラストや比喩表現の多用など少々遊び感覚が過ぎる面もなくはないが、こ
の本なら子どもたちにも親しんで見てもらえるのではないか。名前も『木の実
ノート』である。 
 「たねがおおきくなるまで、大事につんで、 守って育てるベビーシッターが
木の実で す。」「木の実は、たねのゆりかご」「木の 実は たねのしかけ人」
など、最初から比喩表現が目につく。
 紹介されている木の実は、コブシ、ミズキ、エゴノキ、フジ、ネムノキ、
ヤマモモ、アオギリなどみんなで35種ほどある。所々で、テーマ別に木の実
を並べているのもいい。「生で、食べられる木の実」「食べると毒の木の実」「鳥
さんが食べてくれてよかっタネ」など。また、その実に応じて「梅干し作り」
や「ほしガキ作り」「トチもちを作ってみよう」などのコーナーもある。
 部分的には写真も挿入されているが著者挿し絵が中心。やさしいタッチが
よい。
 
『木の図鑑』    長谷川哲雄作   岩崎書店  1999,8刊
表紙カバーに
「この本では、四季折々の雑木林の樹木のみどころを紹介することにつとめまし
た。木の名前を知ったり、生きものどうしのかかわりについて考えるきっかけと
して使っていただけると、とてもうれしく思います。」とあるように、それぞれ
の季節毎によく目にする木の特徴が描かれている。
 それぞれに、見開きページで一項目にまとめられていて木と木の比較もしや
すい。各項目の木にまつわるいろいろな話は、後部に文章で添えられている。
 項目としては「早春の樹木の花」「新緑の季節」「みのりの秋」「冬木たち」な
ど、20場面ある。その季節ごとに目に付くテーマでまとめられているのがよい。
 各場面は、絵を重点に置かれているためか、文字は最小限に留められている。
しかし、ちょっとしたコメントも参考になる。
「おちばを あつめて、ならべてみよう。おなじ種類は、どれとどれ」
「葉が 落ちると、ちがった世界が みえてくる。」
「はっきりした 鋸歯があればツルマキ、なければテイカカズラだ。」
といった具合に入っている。
 絵はなかなかリアルで美しい。まず全体の特徴がわかるような絵があり、そ
の合間に、しべだけ、実だけ、葉っぱだけといった部分的なスケッチが添えら
れている。全容と部分的な特徴がよく分かる。
 絵による図鑑は、写真で見るよりもはるかに特徴がよくつかめることがある。
視点が明確なためだ。              
       
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