『遺伝子がわかる』へ

『葉の裏で冬を生きぬくちょう』
               
高柳芳恵文・村山純子
 
 子どもと図書館に通ううちに本好きになり、自然界にも興味を持ち
始めた著者が、ある時の自然観察会で羽の裏が銀色に輝くウラギンシ
ジミと出会う。
 この美しいチョウとの奇跡的な出会いが、彼女をチョウの研究家へ
と導いていく。彼女は、ウラギンシジミの美しさ、強い生命力にひか
れて、だんだんとウラギンシジミの観察を続け、ついに自室での飼育
羽化まで成功させる。この研究レポートが本になった。
 この本の著者が特別の専門家でないだけに、身近な問題に興味を持
って追求していくおもしろさがよく伝わってくる。子どもたちにも親
しみやすく読んでもらえるのではないか。
 冬場でもチョウやトンボは意外と成虫で冬を越している。ふだんな
かなか目につかない葉の裏などでじっとしている。そのウラギンシジ
ミの冬越しの観察から著者の研究は始まる。
 「ふだんは4本足で葉っぱにしがみついているのに、強い風の日は
  6本足でしがみついている。…」
 「カメラでピントを合わせると、危険を感じているのか、羽で相手
  を威嚇してくる。」
等と、細かな観察が続く。
さらに、「ウラギンシジミは太陽がすき」「風はいのちとりか」「い
のちをつなぐ雨のしずく」「春のたびたち」「チョウのからだができ
ていく」などと続き、著者の感動が伝わってくる。
 著者の写真技術も相当なものである。なかでも〈口吻をのばして雨
水を吸うウラギンシジミ〉の写真は超一流の生態写真である。生態研
究の楽しさを存分に感じさせてくれる。
              偕成社 1200円(税込)1999,10,刊
 
 
『遺伝子がわかる』丸山工作著
 
 ちくまプリマーブックの一冊。内容的には、高校生以上が対象の
本である。遺伝子という高度な内容が、とても読みやすい文体で書か
れている。文章の読みやすさにひかれて、ついつい先へと読み進んで
いってしまう。
 「クローン牛とかクローン羊という言葉を聞いたことがありませ
  んか?上等な肉質を持つ牛どうしをかけあわせた仔牛は、両親の
  すぐれた長所をもちあわせることが多いのです。そこで、畜産家
  はバイオテクノロジー(生物工学)の手法を使って一卵性多生児
  を人工的につくりだしているわけです。
  「どうして?」といわれるでしょう。まず、メス牛から卵を取り
  出し、… 」
と、話は続く。
遺伝子組み換え、遺伝子治療、クローン羊や臓器移植、エイズなど
の話が簡潔にわかるように書かれている。
 初めの章では、染色体やDNA、細胞の話があり、第4章から具体
的なバイオテクノロジーの話に入っている。
 第5章「外敵に対する免疫」では、抗体、ワクチン、臓器移植、ア
レルギー、エイズなどの話がある。
 「エイズが恐ろしいのは、そもそも人間が病気を阻止するためにも
  っている免疫システムそのものをこわしてしまうからです。」
とある。
 第6章「進化の不思議」では、ダニの話から始まって、動植物の共
生関係、擬態の話があり、「新しい古細菌」などと名付けられた悪環
境に生きる細菌が生物進化の元となっている話など興味深い話がある。
               筑摩書房 1200円+税 1999,10,刊
                  『葉の裏で冬を生きぬくちょう』へ

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