書評                          

『 くっつくふしぎ」へ』

 
『世界のたね』 アイリック・ニュート著 猪苗代英徳訳
 
 副題に―真理を追いもとめる科学の物語―とある。万物の根源、存在のおお
もとの法則、自然界の根本物質を明らかにしてきた科学の発明発見の歴史物語
である。数式等使用せず、文章も読みやすく訳されている。高校生以上なら、
興味深く読めるのではないか。
 31章に分けて、古代ギリシャ時代からの数々の発明発見のドラマが展開さ
れていく。改めて感心させられるのは、古代ギリシャ人たちの数々の「知を愛
する」行為である。ピタゴラスやデモクリスト、アリストテレスなど多くの哲
学者たちが登場する。彼らはすでに、イメージとしては現代科学にも通じる
〈真理〉を追い求めていた。
 すでに「図書館」もあったという。
 人類の〈知〉は、ギリシャ以外のアラビア、インド、中国などの世界各地で
も開花していった。しかし、それらの国々との交流が進み出したときに、宗教
の〈かべ〉が立ちはだかった。この間のドラマがまた、劇的である。
 「それでも地球はまわっている」と解いたガリレオの『天文対話』もこの時
に出されている。科学読み物の一つの原型である〈対話形式〉を使って、〈真
理〉が説かれている。
 1600年代になっていよいよ実用的な発明、発見の花が開く。蒸気機関の発明
から、光、電気、電磁波、微生物、放射能等の発明発見、進化論の構築へと続
く。
 この〈真理を追い求めてきた人類の強い好奇心〉にふれることによって、若
い読者も「知」への興味を一段とわきたたせるのではないだろうか。
                   NHK出版  1999,10刊 2000円
 
『くっつくふしぎ 田中幸・結城千代子文
 取り上げたテーマが奇抜でおもしろい。内容的に深くは書いていないが、
「くっつく」という現象について概観した楽しい絵本である。
 まず初めに部屋の中にある〈くっついているもの〉さがし。部屋のまわりを
見渡せば、ほとんどが〈ひっつく〉ことで、それぞれに役立っている。くっつ
きかたは実にいろいろである。
 次に自然界に目をやると…、ここにもたくさんの〈くっつくもの〉がある。
ヌスビトハギ、オナモミ等々。
 では、昔の人々は、自然界のどのようなものを〈接着剤〉にして、役に立つ
ものを作っていたのだろうか。にかわ、とりもち、こむぎのり、は知られてい
ることだが、アスファルトが出てくるとは。
「うん?アスファルトは石油製品なの
 に、どうして昔から?」
と、一瞬疑った。
 所によっては、地面から石油がしみ出ていて自然に固まってアスファルトが
できていたとのこと。なるほど。そのあと4頁にわたって、各国のアスファル
トの利用例が描かれている。外国ではむしろアスファルトが通常の〈接着剤〉
だった。
 では、大きな建造物ではどのような〈接着剤〉が使われていたのだろうか。
石灰モルタル、しっくいなど、より強力な〈接着剤〉が早くから使われていた
とのことである。人々の工夫の姿が見えてくる。 最後に、磁石や静電気の話
も入る。
「でんぷんのりも磁石も、静電気も同じ 原理でくっついているの?」
 この疑問には、「解説」でうまく説明されている。 
                    福音館書店 2000,2刊 1,300円
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