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『あめがふるとき ちょうちょうは どこへ』
図書解説
『ほら、きのこが…』 越智典子文、伊沢正名写真
福音館書店
「たくさんのふしぎ傑作集」として再販されたものだが、改めてこの本のユニー
クさが目についた。
この本は、分類から言うと「自然の本」の一つだが、たんにキノコの解説をした
ものではなく、美しい写真と見事な誘いの言葉でキノコへの興味を高める工夫が読
みとれる。
まずもって、題名からユニークである。「ほら、きのこが…」と語りかけるよう
な口調で、読者をとりあえずキノコに誘い込む。本文も簡潔である。
「雨あがりはきのこの楽園
きのうまではいなかったのに
すました顔して立っている
いったいどこからきたのだろう。」
と画面いっぱいの大きなキノコに「どこからきたのか」と問いかける。
次に「林の中でキノコに会った」「原っぱでキノコに会った」「町の中でもキノコ
に会える」等と数々のキノコの顔が出てくる。でも、ある林に行くと
「きのこ…が、いない」
すると、次のページでは
「ここだよ、ここ、土の中/こっちにい るよ、枯れ木の中/あたしはここよ、
まつぽっくりの中/そっちじゃない よ、きみの足の下さ」
と、陰の声が菌糸に気づかせる。
他には、胞子の話、菌糸と養分の話、キノコはいのちの手わたし役、の話などキ
ノコの全ぼうが見えてくる。
この本は、手短な問いかけと簡潔な言葉と見事な写真によって、キノコの世界に
読者を誘い込んでいく魅力を持っている。科学絵本の基本が備わっている本と言
える。
『あめが ふるとき ちょうちょうはどこへ』 金の星社
M・ゲアリック文、L・ワイスガード絵 岡部うた子訳
初版は1974年という。絵本界では、ときどき書評にも取り上げられていて、絵
本としての評価も高いようだ。
「美しく叙情的な絵」「読者を引き込む 書き出し」「わたしの視点で」「〈くりか
えし〉によってふかまってゆくもの」「わ かりやすい構想」「説得の論法」
(岡田博子・『読んであげたい絵本』西郷竹彦編・明治図書)
などの観点から、この岡田さんは高い評価をしている。
わたし自身科学の絵本(読み物)に興味を抱くのは、ふだんいくら自然現象を
見ていてもなかなか気づかない視点にそっと気づかせてくれる点にある。この
本は、いわばふだん見ている生き物からは見えない世界にそっと案内してくれ
ている。自然界入門の本である。
この本の文章や構成の特色については上記の本にまかせるとして、一つの
大きな特徴は、答がかくれていることにある。
表紙のカバーから本文が始まる。
「ポツ、ポツ、ポツ/あめが ふってきたら /みなさんは/かさを さしますね……
/やさしい はねを した ちょうちょう は どこへ いくのでしょう」
と問いかけ、他の生き物たちの雨の時の姿が次々と描かれていく。しかしその
都度
「で、ちょうちょうは どうするのかしら。」
の問いを繰り返している。
もちろん、そのヒントは隠されているが、読者にとっては、「よし、こんど自分
で見つけてやろう。」と意欲をかき立てられるのではないか。絵もシンプルでイ
ージがふくらむ。