『日本の産業のすがたと未来』   『みんなの荒川』
 
◆『日本の産業のすがたと未来』 板倉聖宣監修・著 小峰書店
 この本は「グラフでみる日本の産業」シリーズの第1巻である。この第1巻では
日本の産業の姿を全体的に眺めているが、続巻では個々の産業の姿を個別に
扱い全10巻で完結している。
 この本は、他に類を見ない科学の本である。このシリーズの特徴として、この本
のカバー裏に著者の次のような監修の言葉がある。
「…このシリーズでは、現在から過去の 歴史を予想しながら見てゆき、さらに 
未来を予想する見方考え方を身につけ られるようにしました。…」
 めまぐるしく変化している社会の姿を、科学の目で見ることのすばらしさと楽し
さを味わえるようにしている。
 もう一つ特徴は、このシリーズの各所で書かれているグラフにある。この本のグ
ラフを初めて見られた読者は、おそらく描かれているグラフに目をうばわれるこ
とだろう。直感的に量と率(割合)が読みとれるように工夫されていたり、対数グラ
を用いられたりしている。これらのグラフからもものごとを科学的に把握する手
を学ぶことができる。
 さらに、それぞれの項目に「問題」を設定して、読者にも考えてもらいながら話
をすすめていることも特徴である。予想がはずれることも楽しい。
 このシリーズでは他の著者が
 「食料の生産」「せんい産業と日用品」「エネルギーと資源」「電機産業とコンピューター」
 「機械工業と建設業」「運輸と自動車工業」「商業と通信」「サービス産業と教育・レジャー」
 「環境産業と医療・福祉」
に分けて執筆している。いずれも監修者は板倉聖宣さん。興味のある刊から見ると
よいだろう。                       2000,6刊 各2,900円
 
. 
◆『みんなの荒川』 野村圭佑・編著 どうぶつ社
 ほぼ関東平野の真ん中を流れる「荒川」を舞台に、その上流から下流までのさま
ざまな自然の姿を写真で追いながら、都市河川の持つ意味をさぐろうとした本である。
 まずは、荒川の全姿を「鳥の目」で眺める。この荒川には、じつに多数の支流が
注ぎ込んでいることがわかる。荒川を上流から下りながら川の変化を見ていくと、
大都市の大きな川も、流域の自然をそのまま運び込んできているようだ。
 次は、「荒川下流をたんけんしよう」というテーマで、下流域のくわしいイラス
ト図が10頁にもわたって書き込まれている。ワンドや干潟、水辺公園なども見られ、
その場所その場所で実にさまざまな形で人間が利用していることわかる。多様な生
き物の姿も描かれている。
 次に、荒川下流の植物や昆虫、野鳥、魚類についてかなりくわしい報告が続く。
荒川下流域にはナンバンギセルやキンガヤツリ、チョウジソウなど、珍しい植物も
生命を維持している。ミドリシジミやギンイチモンジセセリなどのチョウもいる。
オオキトンボも帰ってきているという。オオヨシキリやバンなどもねぐらをかまえ
ている。ミミズクやチョウゲンボウも飛来している。また、この河川域にはさまざ
まな人間の営みの跡が残されていることも書かれている。
 今や荒川流域は、大都市に残されたオアシスになっているとして、同じ川から分
かれた隅田川と対比して、自然を残した河川工事の大切さを訴えている。
 都市河川での自然保護の大切さを改めて考えさせてくれる本である。
                             2000,6刊 1,500円
    

  このページの上へ    「2000年9月」へ