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新刊解説 2000年11月
『川に親しむ』 『光をつむぐ虫 』
◆『川に親しむ』(岩波ジュニア新書) 松浦秀俊著 岩波書店
著者は日本一の山国高知県に生まれ、子どもの頃から四万十川や仁淀川など
の支流で親しんできた楽しい想いをいつまでも持ち続けている。その著者が、今
の河川の現状に危機を抱いて本を書いた。それがこの本である。
第1章では、「ほんの30年前は、川はなんでもありのワンダーランドでした。」
と楽しかった子どもの頃を回想する。そして、本来あるべき川の基本形態や多様
な生き物についてふれる。
第2章から第5章までは、さまざまな形での川での楽しみ方を語っている。まず
最近の都市河川に多く見られる「親水公園」は「手軽さや安全を手にするために、
自然の川のもつ大事なものを失っている」として、むしろ自然の川で「安全に川に
入っていくための知恵」を身につけることの大切さを説いている。
そのあと、水辺の小動物とつき合う楽しさ、小川や池の生き物たちをとらまえる
楽しさ、大川や渓流での生き物捕りに挑戦する楽しさ、河口の生き物と遊ぶ楽しさ
魚をつかまえる楽しさ、そして最後には釣りの楽しさまで、実にさまざまな場所で
の川遊びの楽しさを目いっぱい書いている。
最後の章で著者は、今のようにほとんどの川がコンクリートで護岸されるように
なった経緯を振り返り、これからどのようにして子どもたちを川に呼び戻すかみん
なで考えていこうと呼びかけている。あわせて、一部の地域で始まった「自然と共
生していくための知恵」も紹介している。今やっと始まった多自然型河川への改修
にはずみがつく一冊である。
文章がとても易しい。小学校高学年児童から楽しんで読める本である。
2000,7刊 700円
◆『光をつむぐ虫』(たくさんのふしぎ) 北条純之文・写真 福音館書店
「光をつむぐ虫」という題名が楽しい。
「人間の五感と響き合う想像力を大切にしたい」と言った加納信夫氏(元「たくさ
んのふしぎ」編集長)の言葉通りの本である。
子どもの頃近くの雑木林で見た緑色の美しい繭、「いったいなんの繭だろう。」
と心に思ったまま忘れてしまっていた著者が、大人になったある日、旅先の染物
屋の前でその緑色の繭と対面した。著者の脳裏には、少年時代に雑木林で出合
ったあの風景が見事に蘇ってきた。
そのことが原動力になって、著者はその繭のなぞ探究していく。その緑の繭はヤ
ママユガの繭であること、その繭から取れる糸は天蚕糸と言われる高価な糸であ
ることなど知り益々興味をいだく。
そして、今はもう少なくなったヤママユガの繭の生産農家を訪ねる。一カ所でた
くさんの蛾を育て、良質の繭を採る工夫は「なるほど」と感心させられる。山繭を
卵から成長させて飼育していく過程もよくわかる。卵を採取するために、「雄と雌
を1匹ずつ゛蝶かご゛という竹かごに入れて、かごの竹に卵を産みつけさせる」と
いう。なかなかユーモラスだ。
そのあと、山繭生産の歴史にふれる。すでに江戸時代から生産されていた。著
者は繭から糸につむぐ人、糸から織物を作る工房も訪ねる。
この本は、ヤママユガの生態を語る本でもあり、天蚕糸の織物工程がわかる本
でもある。写真の構成もいい。各々の写真が天蚕糸(山繭)の美しさをうまく引き
出している。
子どもの時の豊かな想像力が大人になって見事に結実した夢のある話である。
2000,11刊 700円