新刊書評     2001年1月

『漁師さんの森づくり』       畠山重篤著、カナヨ・スギヤマ絵  講談社
 畠山さんは、長年宮城県気仙沼の海でカキの養殖業を営んでおられる漁師さんである。
その漁師さんがあるとき、近年のカキ漁不良の原因は海に注ぐ河川の上流にある落葉樹
林帯の減少にあることをつきとめた。そこから、畠山さんの行動が始まる。「森は海の恋人」
を合い言葉に、研究と講演を重ね、ついに自ら組織して、漁師さんが森づくりに挑戦すると
いうドキュメント物語である。
 最初のプロローグに
「 山に大漁旗なんて、ふしぎに思いませんか。旗の下では、日に焼けた顔に、は
 ちまき姿の男たち、なれない手つきで木 の苗を植えているのです。しかも、ブナ、 
  ミズナラ、ミズキなどの落葉広葉樹です。
  〈森は海の恋人〉と書かれた、たれまく もはられていました。…
   海から遠くはなれた山に、なぜ漁師さんたちが木を植えはじめたのでしょう。
  森と海とはどんなつながりがあるのでしょうか。 …」 
とある。
 著者の子どもの時の体験から豊かなリヤス海岸の紹介やカキ養殖の話が続く。そして
1984年、フランスのカキ養殖現場を訪れた著者がそこで見たものは数十年前の豊かな気
仙沼の海と森だった。
 そこで、著者は海に流れ込む河川の上流部にある落葉樹の海水への重要な役割に気づ
く。以来、農薬とコンクリートと杉林からの脱却こそ人類の幸せにつながることを訴えていく。
 川上の落葉樹林がなぜ海水に好影響を及ぼすのかについても、分かりやすく書かれてい
る。
 その後毎年「森は海の恋人植樹祭」が行われているという。
                                            2000,11刊 1,200円

『海岸林が消える!?』      近田文弘著  大日本図書
 左記の〈森づくり〉の話とは、まったく逆の発想の森林保護の話である。
 著者は、日本各地に存在する海岸林に目をつける。その海岸林も今は各地で松枯れの
被害にあっている。その松枯れをどのようにしてくい止めるか、それがこの本のテーマであ
る。
 海岸林は一般の森林と異なって、松の強い性質を利用して海風や高潮、塩害、砂の移動
を防ぐことが目的となっている。それだけにここでは、マツだけが生
き残れる環境が優先さ
れる。
 最初に各地の海岸林の紹介があり、それらの海岸林保護にむけて昔からどのようにして
人々に受け継がれてきたか語られている。途中、マツ枯れの原因にもふれられている。そ
の元凶は北アメリカから移ってきたマツノザイセンチュウとその媒介役のカミキリムシだと
いう。
 話が本筋に入るのは、後半からである。
今のところ、海岸林として最も適しているのは一部の、常緑広葉樹やミズナラ林、マングロ
ーブ林を除いてマツ林とのことである。マツは植物遷移でも最初に現れるように荒れ地に
適合する。そこで、「海岸林の未来」の項で著者は提言している。
「広葉樹林への遷移を止めよう」
つまり、自生する広葉樹を伐採しようということである。それらの樹木が日光を遮りマツを弱
らせるという。
「マツノザイセンチュウノの攻撃を防ぐ」
これには農薬も必要だとのことである。
 「若木を植え、間伐の手入れをする」
 「市民の運動に期待する」
 「専門家と役所に期待する」
とある。あと、子どもたちにはできるだけ海岸林に行って海岸林を知ろうと訴えている。
 文章は端的で読みやすい。
                                                    2000年11月 1350円

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