新刊解説 3月

空を見る』 ちくまプリマーブックス
  平沼洋司文・武田康男写真 筑摩書房
 きれいな空の本が出た。ぱらぱらと見て眺めているだけでも何度見てもあきない。
空はこんなにも様々な表情を見せているのかと改めて認識させられる。
 「普段は木にもしない空や雲だ。また、気にしなくても生きていけるのも、空や雲だ。だが、
そこには心を豊かにしてくれる何かがあるように思う。元気のない時、すがすがしい時、たま
には空を眺めていたい。そんな一助にこの本があれば幸いである。」
とはじめに書いている。
 この本の素晴らしいところは、単なる空の写真集ではないところにある。写真の合間に
あるエッセイはなかなかよく調べられている。空にまつわるさまざまな話題や、人の思い、
文化史的話題も含めて解説してくれているのでより親しみやすい。このことについて著者は
 「文章にも驚きと感動、発見とわかりやすさが必要ではないかと、毎回主題の雲をめぐ
る話題を生活から文化、歴史などあらゆる場に求めた。その結果、現在はあまりかえり
みられなくなった空や雲ではあるが、古人は空や雲を眺め、そこにさまざまな思いを託し
て生活してきたことを発見し、話題はたくさんあった。」
と書いている。
「虹」の項を見てみよう。虹はどうして起きるのかの自然現象の説明から、中国の古語
の話、虹の七色の話、「虹」という漢字の起こり、「虹」の方言に至るまで簡潔にまとめ
られている。写真にはうまく副虹も写っている。
 それぞれの写真も見事である。疲れたら、この本のページをめくり「空」を眺めるとしよう。
                                       2001,1  1,400円
 
『だれがコックロビンを殺したの?』
      
ジーン・クレイグヘッド・ジョージ著
         グループ・ロビン訳    学陽書房
 この本はフィクションの推理物語である。しかし、そこで展開される“犯人さがし”は、環境
汚染解明への手がかりを教えてくれる。
 この本は、レイチェルカーソンの『沈黙の春』に刺激されて最初は1971年に発刊された。
それが1990年に再版され、それが今日本語訳になってわれわれの目にとまるようになった。
環境ホルモンが益々人類を脅かし始めた今、この「物語り」のストーリーは、より一層現実
味を帯びて読者にせまってくる。
 話は、環境行政を自慢するある町の市長の庭に立ち寄ったコックロビン(コマドリ・渡り鳥)が
急死することから始まる。「どうしてこの町でそのコックロビンが死んだのか」、気になる市長の
依頼を受けて、町に住む少年トニー・イシドロが仲間とともにその謎をさぐっていく。調査を重ね
るうちに、あたり一帯の生態系バランスの崩れにも気づく。やがて、友人の化学専門家の分析
によって、コックロビンの体の中に蓄積している物質を突き止める。そこから、いよいよその物
質の流出源をさぐっていく。
 親しい女友達メアリーの父親の経営する工場から出る重金属、市長の庭の芝生に散布され
る殺菌剤、リンゴ園で使われていたDDT、ゴミ処分場から出るPCB、農家で使う種子防腐剤、
鉄塔近辺で散布される除草剤とさぐっていく。そして、直接の死因は、生態系バランスの乱れ
による大量発生の寄生バエによるものであることをつきとめる。
 身のつまされる思いで読み終える。最後に立松和平氏の解説がある。  
                                         2000,11  1,600円
                
「新刊案内」2001年3月