書評                          

  ──わたし好みの新刊 9月

◆『水を知ろう』(「岩波ジュニア新書」)  荒田洋治著  岩波書店 

   中・高校生向きに書かれた水に関する統合的な研究指南書である。少し専門的な内容の部
  分もあるがそこはとばしてもよい。水に関してだれもが知っていていい内容がたくさん盛り
  込まれている。そこだけ読んでも役に立つ。
   この本の特徴は、水についての自然科学的なアプローチだけでなく、昔からの人間生活と
  水との関わりや文人の記述などを引き合いに出して話を進めている点にある。また、関連し
  た情報を得やすくするためにインターネットURLの紹介も多い。
   一般の生活になじみのある興味ある部分について見てみると「自然と水」「水と生きる」
  「水の教訓」などの項がある。
   「自然と水」では雪の話がおもしろい。空中の水滴がたんに0度以下になっても雪(氷晶)
  ができることはなく、芯になるための空気中の〈ゴミ〉があって初めてできる。中谷宇吉郎
  博士の研究や『北越雪譜』を引き合いに出しての日本の雪の研究史が興味深い。「雪の結晶
  はなぜ六角形であるか」についてすでに400年も前にあの天文学者のケプラーがその構造を
  予言していたとは驚く。
   「水と生きる」では、水に関する身近な問題についてさまざまな視点から書かれている。
  〈水と健康〉〈味と匂い〉〈食と文化〉〈水を飲む〉〈ミネラルウォーター〉〈硬い水、軟
  い水〉〈美味しい水〉〈ミネラルウォーターと温泉〉など興味ある話が続く。後半にある〈
  植物の耐寒性〉〈動物の越冬〉の話も新鮮に読める。厳寒に生きる動植物たちは〈凍死しな
  い〉ためにこんな工夫をしているのかと感心させられる。
   最後に著者は「人工の増加、水資源の枯渇などをもとに、水が国際政治の重要な戦略にな
  りつつある」と環境問題にも目を向けている。今や〈食糧〉と共に〈水〉についても確かな
  情報を持つことが必要不可欠な時代でもある。          2001,7  780円


◆『はかる!心から物の重さまで』
            
(子ども科学図書館) 大竹三郎著 大日本図書出版
   最初に、3000年むかしエジプトのパピルスに書かれた古代エジプトの〈死者の書〉の審判
  の図が出る。なんとそこには立派な天びんの絵が描かれている。しかも、奇怪な怪獣の絵と
  共に。天びんではかっているのは「死者の心臓」の重さだという。その死者が生きている時
  に悪戯をはたらいていると心臓が重くなっていて天びんが傾く。するとたちまちその心臓は
  食べられてその人の復活への夢は絶たれるのだそうだ。
   このように、心の善し悪しを天びんではかるという死生観はかなりいろんな宗教にもあっ
  たらしい。死者を天国と地獄の道に振り分けるのに天びんを使うのだともいう。さらに発展
  して、正義の神の象徴として各国の女神の彫刻に天びんが描かれるようになった。天びんの
  歴史もなかなかおもしろい。
   次に、天びんのしくみの話に入っている。天びんで重さをはかる以上、当然場所にによっ
  て重さ(重力)が変わってくる。ほかに、「上皿天びんにかくされた秘密」、「小さな分銅で、
  大きな重さの物をはかるには…」など、興味のある話もある。トラックや飛行機など、重量
  物を計るスケールは決してその重さに見合った分銅を用意しているわけではない。
   最後の「ピーマンが天びんを変身させた」がおもしろい。天びんの世界も今やコンピュー
  ターの時代へ。「いくつかのピーマンを瞬時に組み合わせて、ちょうど150gにして袋詰めに
  する」という難問にいどむ技術者の話は「なるほど」とびっくりさせられる。コンピュータ
  ー時代になり、公正さをシンボルとしている天びんが人の目にふれなくなると、人間の生活
  にも悪影響を及ぼすのではないかと著者は気遣う。  
                                             2001,4 1,400円

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