◆『身近な分子たち』 サイエンスシアターシリーズ 原子・分子編2
板倉聖宣・吉村七郎著 仮説社
非常に楽しい本が出た。分子・原子に関する基本的な話をこんなにわかりやす
く、しかも楽しく学べるように書いた本はない。この本では、空気中に存在する
分子や原子、植物体に存在する分子について模型図を中心に展開している。
この本の特徴は、次々と出てくる分子(原子)の図に、読者が直接色塗りをして
いくことにある。分子の色など最初からつけておけばいいではないかと思われる
が、色塗りもけっこう楽しいものだ。それに、色塗りの合間に分子についてのイ
メージが徐々
に広がっていく効果も大きい。この本のもう一つの特徴は、簡潔な問いかけ言葉
が主軸になって話が展開されていることにある。このような手法は話の筋を見事
に引き立てている。
第1幕は、空気中に基本的にある窒素、酸素、水、二酸化炭素などの分子が出
てきて、空気の概念をまとめている。そのあとに、「脱酸素剤=エージレスでの
実験」の話が入る。もし、自分で試したければ家庭で簡単に出来る実験である。
このおかげで、空気中の分子の話がぐっと親しみやすくなる。分子、原子も私た
ちの身近な存在であることがわかる。第2幕は「空気を汚す気体」で、フロンや
ダイオキシンまで出てくる。第3幕は「くさい気体・おもしろい気体」で、アン
モニアからメタン・エタン・プロパン・笑気まで出てくる。ここでかなり長い
〈いろいろな気体の発明発見物語〉が入る。気体を発見していく科学者達の発明
と失敗のドラマが語られている。第4幕は「植物と食物のもと」で、長大なセル
ローズや紙の話、植物の成長の話、砂糖やサッカリンの話と続いてアルコールの
話で終わっている。
2001,8
2000円
◆『6000000000個の缶飲料』
今泉みね子 合同出版
この本は科学の話を書いた科学読み物というより、クラスのみんなで缶入り飲
料減らしていく運動を展開したドイツの子どもたちの話である。科学の知識もた
んなる知識で終わるのではなくて、現実の生活の中で自分たちの未来を良くして
いく原動力となってこそ意味がある。この本は、そうした行動のドキュメンタリ
ーで、日本の子どもたちにも刺激を与える読み物ではないか。
この本の主人公マリー(仮名)は特異な家庭環境で育ったせいか、自分から口を
ひらくことはめったにない女の子だった。そのマリーの通っている学校も、「教
室で落ち着いてすわっていられなかったり、叫んだり、ぜんぜん話せなかったり、
すぐに怒り出して暴力をふるってしまつたりして、授業のじゃまをする子どもた
ちのかよう学校」である。
そのマリーとクラスメートたちは、ある日先生の話された〈缶入りの飲み物を
へらすコンクール〉の話に興味を持った。マリー達は、先生から「アルミ缶を作
るために、たくさんの酸性雨を生んだり森林破壊を行っている」と聞いて、急に
心が動きだした。やがて「缶ジュースや缶コーラを飲むのをやめてリユースビン
入りの飲み物を買ってください。」と校内で話してまわった。この動きはだんだ
んと大きくなり、みんなの力も加わって市の環境課を動かし、州政府の環境省か
ら「72%リユース率を守る」約束をとりつけた。マリーたちの行動は社会全体の
大きな行動のきっかけになった。
最後に著者は「日本ではドイツの60億個どころか360億個以上の缶入りの飲み
物が飲まれていると言われています。日本人は缶入りの飲み物や使い捨てペット
ボトルをへいきで飲むことで、もっと環境に害を与えているのです。マリーたち
の活動をむだにしないためにも、すこし飲み物だけでも習慣をかえませんか?」
と訴えている。
2001,6
1,300円