新刊案内  10月                        



『身近な分子たち』 サイエンスシアターシリーズ 原子・分子編2
                        板倉聖宣・吉村七郎著  仮説社
非常に楽しい本が出た。分子・原子に関する基本的な話をこんなにわかりやす
く、しかも楽しく学べるように書いた本はない。この本では、空気中に存在する
分子や原子、植物体に存在する分子について模型図を中心に展開している。
 この本の特徴は、次々と出てくる分子(原子)の図に、読者が直接色塗りをして
いくことにある。分子の色など最初からつけておけばいいではないかと思われる
が、色塗りもけっこう楽しいものだ。それに、色塗りの合間に分子についてのイ
メージが徐々
に広がっていく効果も大きい。この本のもう一つの特徴は、簡潔な問いかけ言葉
が主軸になって話が展開されていることにある。このような手法は話の筋を見事
に引き立てている。 
第1幕は、空気中に基本的にある窒素、酸素、水、二酸化炭素などの分子が出
てきて、空気の概念をまとめている。そのあとに、「脱酸素剤=エージレスでの
実験」の話が入る。もし、自分で試したければ家庭で簡単に出来る実験である。
このおかげで、空気中の分子の話がぐっと親しみやすくなる。分子、原子も私た
ちの身近な存在であることがわかる。第2幕は「空気を汚す気体」で、フロンや
ダイオキシンまで出てくる。第3幕は「くさい気体・おもしろい気体」で、アン
モニアからメタン・エタン・プロパン・笑気まで出てくる。ここでかなり長い
〈いろいろな気体の発明発見物語〉が入る。気体を発見していく科学者達の発明
と失敗のドラマが語られている。第4幕は「植物と食物のもと」で、長大なセル
ローズや紙の話、植物の成長の話、砂糖やサッカリンの話と続いてアルコールの
話で終わっている。     
                                 2001,8  2000円


『6000000000個の缶飲料』 
                           今泉みね子   合同出版
 この本は科学の話を書いた科学読み物というより、クラスのみんなで缶入り飲
料減らしていく運動を展開したドイツの子どもたちの話である。科学の知識もた
んなる知識で終わるのではなくて、現実の生活の中で自分たちの未来を良くして
いく原動力となってこそ意味がある。この本は、そうした行動のドキュメンタリ
ーで、日本の子どもたちにも刺激を与える読み物ではないか。
 この本の主人公マリー(仮名)は特異な家庭環境で育ったせいか、自分から口を
ひらくことはめったにない女の子だった。そのマリーの通っている学校も、「教
室で落ち着いてすわっていられなかったり、叫んだり、ぜんぜん話せなかったり、
すぐに怒り出して暴力をふるってしまつたりして、授業のじゃまをする子どもた
ちのかよう学校」である。
 そのマリーとクラスメートたちは、ある日先生の話された〈缶入りの飲み物を
へらすコンクール〉の話に興味を持った。マリー達は、先生から「アルミ缶を作
るために、たくさんの酸性雨を生んだり森林破壊を行っている」と聞いて、急に
心が動きだした。やがて「缶ジュースや缶コーラを飲むのをやめてリユースビン
入りの飲み物を買ってください。」と校内で話してまわった。この動きはだんだ
んと大きくなり、みんなの力も加わって市の環境課を動かし、州政府の環境省か
ら「72%リユース率を守る」約束をとりつけた。マリーたちの行動は社会全体の
大きな行動のきっかけになった。
 最後に著者は「日本ではドイツの60億個どころか360億個以上の缶入りの飲み
物が飲まれていると言われています。日本人は缶入りの飲み物や使い捨てペット
ボトルをへいきで飲むことで、もっと環境に害を与えているのです。マリーたち
の活動をむだにしないためにも、すこし飲み物だけでも習慣をかえませんか?」
と訴えている。
                                  2001,6 1,300円  


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