◆『天地のドラマ・すごい雷大研究』
かこさとし作 小峰書店
かこさとしさんらしく、とっつきにくい「雷」という気象現象を劇場でのお話としてまと
めた着想がいい。もちろん、「雷」のおこる原因やその正体についてもしっかりとわ
かりやすく書かれている。
「さぁ、雷の劇がはじまります」でページが始まる。どんな雷のドラマが始まるかほ
のかな期待を持たせてくれる。その舞台の初めの出演者は〈もくもく雲〉だ。その
〈もくもく雲〉がどんどん成長し、やがて〈氷のつぶやあられ〉が登場する。「この小
さい氷のつぶとあられが、これから雷のドラマがすすんでゆくうえで、とてもたいせ
つな役をするのです」と予告がはいる。
ここで、「ふしぎな性質、電気の+と−」の話が入る。電荷を持った原子の絵が
わかりよい。「ぶつけたり、こすったりして、外から力をくわえると、いっぽうのもの
の原子の、−の電気をもったつぶがはなれ、ほかのものの原子にうつってゆきま
す。」とある。次の「小さい氷のつぶとあられのはげしい動き」から、いよいよ〈もく
もく雲〉に電気が登場する。
「なるほど、こんなふうに雲の中で+と−が分かれているのか」
と一目で納得できる。次は、スパーク、放電の話。雷には「下り」と「上り」があると
いう。高速度カメラでとらえた「下り」「上り」の図がわかりよい。
そして、「遠いか近いか1,2,3」、「もつな、たつな、でてゆくな」と歯切れのいい
雷予防術の紹介があり「ドラマはつづく、宇宙の劇場へ」で幕を閉じる。
雷も広い大宇宙の自然現象の一つにすぎないことがわかる。
2001,9 1300円
◆『原子と原子が出会うとき―触媒のなぞをとく―』
板倉聖宣・湯沢光男著 仮説社
先月に続いて〈分子・原子〉の本の紹介である。
今回は、「原子と原子が出会うとき」と題して触媒の話になっている。「触媒」な
んていうと、大人もあまり楽しく学んだ思い出はないかも知れない。しかし、この
本を読み進めているうちに思わず楽しい科学の世界に引きずり込まれてしまう。
第1幕は「分子と分子が出会うとき」で、酸素と水素の混合気体の爆発実験、
ペットボトルを使って安全に実験できる。実際にこれらの実験をやってみたい人
のために実験器具の紹介もある。
第2幕は「固体と液体の表面」の話である。
液体であれ、固体であれ、「表面の原子・分子は他の原子・分子でもいいから、
自分の上の方に原子分子を引っ張り込もうとする性質がある」という著者独特
の見方がすごく納得できる。そのあと、水の表面や活性炭の話、金属接着の話
へと続く。それらの話が土台になって、第3幕「白金の不思議なはたらき」に入る。
ここで、 問題1「爆鳴気に白金を入れたら?」が出る。白金には酸素分子も水
素分子もそれぞれ原子にわけてしまうはたらきがある。さて、どうなるだろうか。
次に、問題2「メチルアルコールをコップに入れてその上に白金を近づけると火
がつくか」がある。どう思われるだろうか。続いて、白金ライターや燃料電池の話
が入る。白金は実用的にうまく利用されているのだ。
第4幕は白金を粉末にした〈白金黒〉の話で「白金黒の異常なはたらき」の話
になっている。意外なところで〈白金黒〉が実用化されていることに驚く。
最後は読み物〈カイロの発明発見物語〉で締めくくられている。実験あり、研究
の過程の話があり、実用的な話あり、読み物あり、しかも根底では分子・原子の
話で通されている科学読物の典型的な本である。
2001,11
2,000円
「2001年12月へ」