新刊案内  2002年4月                        

 
『はじめまして 数学(1)』
                                  吉田武著 大高郁子絵 幻冬社
数学の本としてはちょっとユニークな本が出た。〈数〉アレルギーの人にはぜひともお薦めの
本である。いや、今まで数学好きな人にも、きっと新発見があるにちがいない。「子どものた
めの入門書、大人のための再入門書」とある。
 第1巻はまず、「自然数を追え」、「無限を捕まえろ!」である。最初に、「自然数」を考えて
いくプロセスから入っている。1,2,3,…とただ順番に並んでいく自然数も「ある〈眼鏡〉を
かけてみてやると、綺麗な模様が次から次へと現れてくる」から不思議だ。「0」はあくまで
〈空きの記号〉だとある。
 足し算、掛け算の「計算」に入ると位取りも自然に納得させられていく。その中に潜む数
の美しさに気づかせもてくれる。終わりに並べられた〈数表〉から、四則計算や累乗の仕組
みが見える。
 中程から、いよいよ自然数の本題に入ってくる。分けても、分けても続いて出てくるのが
自然数、これはもう「限りがない」不可思議な数の世界だ。これからおもしろい話が続く。
「三角数の話」から〈素数〉の話へと引き継ぐ。
 〈素数〉は規則的に出てこないところがまたおもしろい。この本と一緒に〈素数さがし〉を
するのも楽しい。〈素数〉と〈素数〉のからみ合いの話へと続く。素数の陰に「銀行などに使
われている暗号技術がかくされている」というのだからおもしろい。なるほど、〈素数〉の持
つ秘密性がよく理解できる。そのあと、〈階乗〉や〈組み合わせ〉、〈素数砂漠〉の話まで次
々と楽しい話が続く。〈自然数〉の奥深さが堪能できる。
 大胆にイラストが挿入され楽しさを倍加させている。2巻もおもしろそう。
                                     2001,12刊 1,800円

『死を食べる』
  宮崎学著写真 偕成社
題名からして異様な本だ。いきなり、野生動物たちの交通事故死の写真が出てくる。イタ
チ、タヌキ、キツネ、カラスなどの無惨な姿。次の「死の時間を撮影する」では、キツネの
死後の変化を時間を追って日毎に記録した写真が次々と出てくる。死後すぐに死体には
ハエが卵を産みにやってくる。やがて山のようにわき出るウジ虫、そしてそれを食べるハ
クビシン、もう目を覆いたくなるような写真の連続である。
 しかし、ここではたと気がつく。こういう生きものの死体も他の生きものの命をつないで
いるということに。
 「夏に見つけた沢山の死」ではヤブキリやアカガエルの死体も、ほぼ一日でアリたちに
よって土の中に取り込まれてしまう。ヒミズやヒメネズミの死体もすぐに何ものかに食べら
れていく。
 このことは水中の生きものにも当てはまる。砂浜に打ち上げられた一体の魚もハエや
ヤドカリで一日のうちに食べられてしまう。大きなクジラの死体も同じ。冬になると、シジ
ュウカラやヤマガラもゴイサギの死体に群がる。著者は言う、「みんな死を食べている」
と。
 次に漁船から水揚げされたトロ箱いっぱいの魚の写真が出る。スーパーの刺身のパッ
クも写る。もうこうなると死体いうイメージはなくなる。「魚の死はめぐりめぐってぼくたちの
お腹を満たしている」と著者は書く。
 ここまでくると、一個体の死もけっしてむだにはなっていないことに気がつき、動物の死
ということが冷静に考えられてくる。「〈環境〉とはみんながつながっている世界」と著者は
言う。著者は古くからの動物写真家である。      
                                       2002,3刊 1,800円

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