2002年 7月新刊
                          
          ―わたし好みの新刊― 7月 
『人間と環境』〈資源・環境・リサイクル 1〉 板倉聖宣著
               
   板倉聖宣・吉村七郎監修 小峰書店
従来の環境に関する本とは視点を変えた〈環境の本〉が10巻のシリーズとして刊行された。
この本はその第1巻目にあたり環境に関する基本的な見方を示している。
 この本の最終ページに〈「環境問題の本」というと、「まだ解決していなくて、暗い見通しし
かない問題」ばかりを選んで書いてあることが多いので、どうしても暗い話になってしまうの
です。〉と指摘した上で〈人間が自然環境を破壊してきたのだって、好んでそうしてきたので
はありません。人間は自分たちの生活環境を少しでもよくしようとしてきて、その結果、自然
を破壊してしまったのです。〉と書いている。
 この本では、まず便利で豊かになった生活環境や社会環境を取り上げ、これらの技術の
発展は、長い間のすばらしい人類の知恵の上に成り立っていることを暗示している。その
前提の中で、公害問題や水質汚染、大気汚染、ゴミ問題、地球温暖化などを取り上げてい
る。そして、最後に〈便利な生活環境はできるだけ維持発展させながら、その生活を持続し
ていけるように、自然環境をまもっていくことがもとめられているのです。〉と今後の方向を
述べて終わっている。くわしくは続刊を見るとよい。仮説実験授業研究会会員の人たちが
具体的に取り上げている。
 巷の環境問題に一石を投じた本として、環境問題を明るい見通しの上に立って考える本
として注目したい本(シリーズ)である。


『はたらきありさん』(新自然きらきら 2) 
                         久保秀一写真・七尾純文  偕成社

 小学校低学年から読める〈新自然きらきら〉シリーズである。非常に鮮明なリアルな写真
がまず印象的である。ふだんは、いくらよく見ていても豆粒ほどの黒い固まりでしか見えな
いアリが、表情をもった生き生きとした生き物として蘇ってくる。もちろん、文章を読んだ子ど
もたちは、一人称で語られるアリの〈気持ち〉にも引きつけられるにちがいない。「おはなしの
中に、自然と夢が いっぱいつまった、観察写真絵本」と表紙カバーにある。
 この本は、表向きはアリの生活を描写しているのだが、その背後にある桜の木が大きな
ウエイトをしめている。アリは桜の木からこんなところで恩恵を被っているのかと改めて知る
ことができる。
 話は、桜の花びらが次々と舞い降りてくる春の場面から始まっている。つぎつぎと降りそ
そく桜の花びらはアリたちの巣穴をつぎつぎとふさいでしまう。「せっせ、せっせ」と働きアリ
の活動が活発になる。やっと、花びらの時期が終わったかと思うと、こんどは重い花の芯が
つぎつぎとアリの巣穴の上に落下してくる。アリにとってはやっかいこのうえない桜の樹であ
る。
 それが、夏になりやがて青い葉っぱをたくさんつけた桜の木に変身すると、待ってましたと
アリたちは葉っぱに群がる。葉っぱの根元についた密線がお目当てである。
 どこにでもいるアリであるが、そのアリたちの一瞬一瞬をリアルに蘇らせている本である。
そして、動物と植物との関連を暗示した本でもある。
                                         2002,4刊 1,000円 

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