―わたし好みの新刊― 9月 

『ダンゴムシ』     今森光彦著 アリス館

 写真家今森光彦さんのダンゴムシ観察記である。見事な写真の数々もさることながら、
一つ一つの文章から次々と感動が伝わってくる。今森さんの、今にしての新たな発見の
話であるからであろうか。
 この本には目次がない。初めから終わりまで一つのストーリーでダンゴムシの生態を語
り続けている。読み終わってみると、ダンゴムシの愛らしい姿がほのぼのと脳裏に焼き付
いている。あるとき、自分の庭にいるダンゴムシの飼育を始め、よく観察できるようにと目
の高さに飼育箱を置いたことが発見を生みだすきっかけになった。
 まず、〈「おーっ」と思わず歓声がでてしまいました。〉と叫んでいる場面は、ダンゴムシ
の歩行の様子。7対の足がものの見事に〈波うっている〉ように動いていた。思わず著者
はピアノをひいている人の指を思いうかべる。
 次に出るダンゴムシの正面のクローズアップ写真が迫力満点。「へえー、ダンゴムシは
こんな威厳のある顔をしているのか」と思わず見入ってしまう。
 次に驚くのはダンゴムシの脱皮の写真。前からするするっと一気に脱いでしまうのかと
思っているとそうではなかった。〈もし、ぼくのよこで、この場面に立ちあった人がいたら、
だれもが声をあげて感動したでしょう。〉と書いている。脱皮した皮もむだにしないでいる
とはこれまた驚きだ。最後のダンゴムシの生まれたての写真がまた愛らしい。ダンゴムシ
もせいいっぱい命をつないで生きている地球の仲間であることがぐっと印象づけられる。
                                       
              2002,5刊 1,400円  
 

『川原の石ころ図鑑』
      渡辺一夫著 ポプラ社

 『トコトコ登山電車』や『地図をたのしもう』など、どちらかいえば地誌的な内容の本を書
いている著者が〈石ころ図鑑〉を書いた。内容を見てみると、さすが地質の専門家の書く
ものとひと味違った楽しい石ころ図鑑になっている。
 この図鑑の最大の特徴は、石の配列が日本全国58の各河川毎になっていることにあ
る。なんと、著者はこの58の河川をくまなくまわって石ころ集めをしたという。まさに現代
版井伊忠敬だ。著者の川づりがこうじて、「北海道から沖縄まで、川原の石ころひろいを
するようになりました。」とある。
 川によってそれぞれ特徴のある石ころ(岩石)分布をしていることは知られた事実だが、
まさかそれを全部くまなく図鑑にしてしまうとは著者ならではの発想である。
 この本は、各河川の解説やその河川の特徴的な写真との併合で、石の図鑑にしては
温かみのある図鑑に仕上がっている。また、各石ころの説明も初心者にもわかりよい表
現になっている。例えば酒匂川の安山岩について「わずかに赤みがかった灰色の安山
岩。黒っぽい鉱物のつぶは角せん石で、たんざくや針のような形をしているものが多い。
丹沢の凝灰岩の山をつらぬく岩脈として多く見られる。」と、目につきやすい鉱物の特徴
とその石ころの出所にまで書いている。
 所々に〈北上川のふるさとはどこ?〉とか〈青海海岸でヒスイさがし〉など、その地域の地
学スポットの紹介もある。各地の特徴が石ころで分かる画期的な図鑑である。
                                                    2002,7刊 1,400円 


             
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