10月 新刊

                         
『温度をはかる』  板倉聖宣著  仮説社
  〈温度〉や〈温度計〉についての楽しい実験の本が出た。この本は、板倉聖宣さん
のサイエンスシアターシリーズ「熱をさぐる」の第1巻にあたる。
 この本での第1幕(章)は「温度のはかり方」である。最初にフラスコとガラス棒だ
けの単純な「空気温度計」を使って実験しながら、〈温度〉の基本的なことがらがわ
かるように話がすすんでいく。これを〈気圧計〉として使った高層ビルでの実験など
すぐにやりたくなる話もある。そのほか、アルコール温度計と誤差の話、沸騰と温度
の話など基本的な〈問題〉が続く。
 第2幕は「いろいろな温度計」。液体の膨張を利用する温度計にもさまざまなもの
がある。液体温度計として利用できるのはその物質の液体状の範囲内に限られる。
自ずと利用できる物質に制約が出る。アルコール温度計の正体、有望なガリウム
温度計の話、それに、金属を利用した温度計の話にまで話題が広がる。
 そして第3幕は「デジタル温度計、その他」の話。ここでは、温度による電気抵抗
の変化を数値化したデジタル温度計の話にはいる。半導体、サーミスターの働きに
ついてもやさしい解説がある。その他の温度計として、放射温度計、高温計、ガリレ
オ温度計などの紹介もある。
 このシリーズの他の本同様、この本も〈問題〉あり、〈討論〉あり、〈実験〉ありで、読
者も楽しみながら読みすすめられる。最後には科学読み物、「温度計の発明発見物
語」がつけられている。                2002,8刊 2,000円 

 
『はじめまして数学3―二階建ての数「分数」の世界
                吉田武著・大高郁子絵   幻冬社
 この本のシリーズ(1)は以前にも紹介した。お話風の書きぶりやイラストなど数学
の本としてはかなりユニークで、今の子どもたちにも親しみやすく読めそうだ。「小学
生のための数学入門、大人のための再入門の書」とある。
 この本では、子どもたちにはなかなか興味が持ちにくい分数に挑戦している。この
本の特徴は、単に分数の意味や計算方法を解説するという域を超えて、広く数学の
世界の一つとして分数を語っているところにある。各節も、〈二階建ての数「分数」登
場〉〈「1」から生まれる数〉〈「半分」を楽しもう〉等のほか〈隠れた「1」を絞り出せ〉〈ユ
ークリッド・二千年の秘伝〉〈大事な分数・便利な小数〉など、興味深そうな題名が続く。
最後には、さらに広い数学の世界を暗示して終わっている。
 内容的にも、さまざまな取り上げ方の工夫が見られる。分数の世界に階乗を取り入
れているのはヒットだ。おかげで、自然数の0乗=1がすんなりと理解できる。また、
素数や素因数、倍数、約数についてていねいに話した後に異分母分数の加減計算
を取り入れている。しかも、電卓を利用することによって、小数計算を併用しながら、
実験的に「同分母にすることの必然性」を導き出して納得させている。いずれも、なか
なかうまいやり方だ。
 この本が、小中学生に、そして数学嫌いにさせられた大人にどのように読まれるか
注目したい一冊である。  
                                    
2002,8刊 2,000円 
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