11月 新刊

                       
『からくり玩具をつくろう』―普及版―
              鎌田道隆・安田真紀子著  河出書房新社
約4年前に同じ本が出版されている。この時はハードカバーで高価だったが、今回は
内容はそのままでソフトカバーになった。おかげで価格がやや手頃となった。
 この本の特徴は、主として江戸時代に普及した手作りのおもちゃ一つ一つについて、
そのおもちゃの生まれてきた背景や当時の遊んでいた姿などまで、きちんと調べられ
再現されていることにある。〈もの作り〉はさておいて、こうした江戸時代のおもちゃ文
化に興味のある人にも大いに役立つ本である。
 「創意工夫をこらしたからくり玩具の復元作業を通じて、昔の人々の知識や技術や
アイディアのすばらしさ、人間的な思いやり、優しさなどを発見してきた。本書では、そ
うした二十年にわたる実験歴史学の成果を広く伝えたいために企画された」と著者は
語る。著者は長年の歴史文化の研究者である。「〈おもちゃ〉という言葉の語源は…」
「江戸時代は、人間的な知恵と愛情が…」と最初の3頁ほどの文章にも解説がある。
ここでは、江戸時代の文化、人間観も垣間見られる。 
 もちろん、ほとんどのページは個々のおもゃの作り方と解説にあてられている。二十
数個のおもちゃの材料や作り方、道具に至るまでわかりよい挿し絵で描かれている。
その合間に書かれている「基本」も役に立つ。「のこぎりの使い方」「竹をあつかう」「ひ
もを結ぶ」など五項目にまとめられている。
 読んで楽しい、見て楽しい、そして作ってみたくなる本である。
                           2002,8刊 2,800円


『雑木林のコレクション』   今森光彦著   フレーベル館
雑木林の一年間の様子が垣間見られる図鑑が出た。著者は、以前は世界の昆虫の
写真を撮り続けられていたが、近年は日本の〈里山〉に焦点を当てた撮影を続けられ
ている。また、自らも滋賀県の里山に移住し棚田や雑木林の保全活動をを続けられて
いる。その今森さんが、今まで撮り続けた写真を〈雑木林の1年〉としてまとめられた。
 雑木林、それは今でも手入れもされずに残された荒れはてた山地というイメージがあ
る。しかし、この本の初めに「これからみんなと歩くのは、ぼくがいつもでかける雑木林。
ノイバラがはびこらないように下草をかったり、木がまっすぐにのびるようにえだをはら
ったりして手入れをしているところだ」とある。雑木林とは、一定の人の管理の下に手入
れされた森であること、そして、この広葉樹が多い雑木林にこそ、さまざまな生きものが
たくさん生息していることを教えてくれる。
  まずは、春の芽吹きとかわい花たちの開花、みずみずしい若葉の茂る5月、そして
虫たちの活動する夏へと続く。秋になると、〈妖精の国〉からキノコたちが「こんにちわ」
と顔を出す。木の葉たちは〈ステンドグラス〉に早変わり。冬、雪の積もった雑木林は動
物たちの足跡と落とし物にめぐり合える楽しい舞台に早変わり。
 雑木林は1年中「たくさんの生きものたちに出会える場所」であることを、この本は教
えてくれる。
                                         2002,7刊 1,600円 

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