―わたし好みの新刊書評―  3月

『やまとゆきはら 大和雪原』 白瀬南極探検隊
                       関谷敏隆さく、福音館書店
 今から約100年前、明治43年、はるか南極まで探検に出かけた南極探検隊の
話である。当時の技術では、南極大陸に上陸することすら死を覚悟の探検であっ
た。この絵本からは、短い言葉と迫力ある絵でその緊迫した様子がひしひしと伝わ
ってくる。読んでいて、思わず息をのむ。
 隊長白瀬矗(ノブ)は、漁船を改造したという200トンあまりの帆船で隊員を引き連
れて南極に向かう。同行した隊員の中に二人の勇敢なアイヌ人がいた。彼らは、
カラフト犬30頭連れての参加であった。南極近くまでの航海は順調にすすんだもの
の、犬たちが次々と病死していく不運に見舞われながら、やっと、氷海にたどりつく。
しかし、たちまち氷に閉じこめられて身動きができなくなる。仕方なく引き返しシドニ
ーで半年間待つことになる。次の年、食料や犬も補給して第2次南極探検を開始す
る。しかし、上陸してからが難行苦行の連続。想像を絶する思いだ。氷点下20度で
の野宿、冷夏25度の猛吹雪に見舞われては犬も人も生きる限界だ。南緯80度の地
点で、白瀬はついに突進を断念し帰路につく。
 この絵本を書くために著者は白瀬矗や二人のアイヌ人のふるさとに出かけたりして
考証している。また、アラスカで犬ぞり体験などもして、できるだけ、現実味のある絵
を書く努力をした。「当時の隊員の気持ちをくんで創作」もしたというのも効を奏してい
る。
 子どもたちも、息をのんでこの絵本を見入るにちがいない。
                                    2002,10刊 2200円 
『すばる望遠鏡』  岩波ジュニア新書
                         家 正則著  岩波書店
 ハワイのマウナケア山頂に位置する〈すばる望遠鏡〉は1998年の12月にファースト
ライトを受けてから、もうすでに4年以上経過している。したがって、もうすでに〈すばる〉
に関する多くの本も出ているが、その多くはトピック的なものが多い。
 この本の著者は、〈スバル望遠鏡〉の計画から設計にまでかかわってこられた東京
天文台の研究者である。したがって、この望遠鏡の建設から運用に関わるまでの苦
労話や体験談がこの本から多く読みとれる。
 「ハッブル宇宙望遠鏡との勝負!」や「重力レンズ(宇宙重力場の観測)」「深探査計
画(銀河宇宙をさぐる)」などから、この〈スバル望遠鏡〉は現代天文学の謎の解明に貢
献していることがよくわかる。「すばるに至る道」、「新しい望遠鏡の構想」、「建設始まる」、
「立ち上げ」と章立てが続いた後、「数々の成果」へと続く。〈すばる望遠鏡〉も4年間の
観測が経過するとさまざまな成果が出ている。一口に言って、〈すばる望遠鏡〉ははるか
かなたで膨張を続ける銀河宇宙を追い続けている。
 最後に、わたしたちに最も身近な太陽系にも、少し観測の目を向けていてくれるのが
ほっとする。すばる望遠鏡でとらえたという天王星の写真はほんとに美しい。大気のメタ
ンの色と赤い輪がとてもきれい。
 その後、「補償工学」、「すばる望遠鏡の次を構想する」と続く。天文学の夢は限りなく
続く。空に大いなる夢をいだく若者なら十分に読みこなせるのではないか
最新の情報を得るためのホームページの紹介もある。  
                                       2003,1刊  780円  

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