わたし好みの新刊 5月

『熱と火の正体』
                               板倉聖宣  仮説社
 以前に行われていたサイエンスシアター「熱をさぐる」シリーズの一冊である。
熱や火を科学として理解することはなかなか難しいが、原子・分子のイメージを
通すことによって、生き生きしたイメージで熱や火をとらえている。
 第1幕は「動き回る分子」。水の固体、液体、気体もすべて動き回る分子の状
態によっておこる。〈燃える〉という現象も激しい分子の動き回る姿にすぎない。
第2幕は「ものを温める方法」。ものを〈温める〉ということは、要は分子の運動を
早くしているにすぎない。「摩擦熱で水を沸騰させられるか」「空気を圧縮して温
度を上げられるか」「鉄をたたいたら温度をあげられるか」など、興味深い問題が
並ぶ。第3幕は「発火法の発明」―火打ち石からライターまで―。〈火打ち石〉とは
いうものの、火打ち石だけでは火はおこらない。人類が様々な工夫を重ねてきた
発火法について、歴史的の流れに沿って分かりやすく書かれている。やがて、マ
ッチの発明へ。このマッチにもさまざまな工夫と技術が生かされている。やがて、
ライターの発明へとつながる。第4幕は「原子の個数と熱」。いくつかの実験を交え
て、やっと「熱」の本質が見えてくる。
 いずれも、「問題」を考えながら討論を読み、「予想」して「実験」結果を知ること
ができる。間に楽しい「お話」が入る。この著者のいつもながらの手法が、読者を
科学の世界に引きずりこんでいく。            2003,3刊 2,000円 
 
『道』―たくさんのふしぎ5月号―                 
                           八板美智夫文・写真 福音館書店
 里山に生きるさまざまな生き物の姿が、一年間通して写真で綴られている。日本
の里山は、田んぼと雑木林で構成された、どこにでもあるごくありふれた風景である。
その、ごくありふれた風景をよく見ていると、生き物たちは一本の〈道〉を介して縦横
につながっていることがわかる。水が流れ、人が歩き、トンボが飛び、イタチが通い、
キツネが通い、チョウが舞う。道ばたには季節毎の野の花が咲きほこる。
 「道をゆけば、草花は季節のおとずれを教え、虫たちは四季それぞれの顔を見せ
  てくれる。足あとだけを残していった動物たちも、思いがけずすがたをあらわ
  しては、ぼくたちをよろこばせる。ぼくのすきな道は、たくさんの命がゆきか
  う道。新しい出会いをもとめて、ぼくはまた、道をゆく。」
と、著者は最後に書く。
 この里山の〈通〉を行きかう生き物たちは、ごくありふれた生き物である。天然記念
物でもなんでもない。しかし、このごくありふれた生き物たちが行きかう〈通〉こそ、人
にとっても大切な、命の〈通〉であることを、著者はたくさんの写真を通じて話しかけて
いる。
 近年とみに、放置された田んぼや荒れた雑木林が目に付く。生き物にやさしかった
〈通〉もコンクリートの乾いた道に変貌している。子どもたちには、せめて本の世界で
でも、生き物を豊かに育む〈通〉を眺めていてほしい。いつの日にか、緑の道を追い求
める日がくるように。                         2003, 5刊 700円
                 「5月新刊案内」