7月 新刊案内

                      
『虫たちはどこへいくのか』
                        岸 一弘著   ポプラ社
 1990年の夏、著者は神奈川県大磯町でクロコノマチョウという南方系のチョウの
成虫の捕獲に成功した。「とうとう見つけた!」と著者は、一瞬、胸をおどらせた。し
かし…、それから著者はこのチョウの分布調査を通して、いろんなことを考察していく。
その考察と予想と発見の過程がほどよく書かれていて、知らず知らずのうちに読者
を後半にまで引きつれていく。
 1990年までは、となりの静岡県までしかこの南方系のチョウの生息は確認されて
いなかった。ところが1990年にこのチョウの成虫を一度に3匹も捕獲して以来、毎年
このチョウの成虫を確認し、ススキの葉に止まる卵や幼虫、木の葉の合間に羽を横
たえる越冬中の成虫までも見つけてしまう。もう、すっかりこの神奈川県でもクロコノ
マチョウは定着しているのだ。それが、2002年には、東京、埼玉、茨城も、栃木など
でも発生が確認されているという。
 このチョウたちはなぜ北へいくのだろうか。著者の大きな疑問である。
 1990年を境に、横浜市での冬の平均気温が数度も上昇している。年々高まってく
る温暖化の影響が出ているのではないかと著者は考える。しかしまた、「地球の温
暖化だけが原因だろうか」と、発生時期なども検討して新たな仮説を立てる。
 そういえば、近年の都会でのクマゼミの繁殖はすさまじい。地球温暖化が、こうした
昆虫たちの行動に少しずつ、時には速いペースで変化を起こしていることを、読者に
も知らせてくれる。                        2003,4刊 950円 
 
『野菜の花が咲いたよ』(「たくさんのふしぎ」7月号)    
                           北條純之文・写真  福音館書店
 野菜の花の本が出た。まずは、長野県松本市に住む著者自身がタネをまき、野菜を
育てることから写真のページは始まる。まず、長野の寒さにも強いコマツナの種まき、
1mmほどの小さなタネから、緑濃い双葉が丈夫な芽を出す。エダマメ、トウモロコシ、
ニンジン、シュンギク、キュウリ、オクラと続いて芽が出てくる。どんなに小さくても、そ
れぞれに違った形がおもしろい。
 そして、5月を過ぎると、トマト、オクラ、キュウリ、スイカ、シロゴマなど、次々と花を
咲かせてくる。黄色い花もあればピンクの花もある。清楚で美しい白い花もある。満
開のトウモロコシの花はノシメトンボのいい休息地だ。
 野菜の中には、花を咲かせたあとに、その実を食べるものも多い。しかし、レタス、
シュンギク、ハクサイなどの「菜っぱ(葉っぱを食べる野菜)、は、花を咲かせないの
でしょうか?」と、問題に「えっ!」と頭をよぎる。
 著者はすべての野菜に花を咲かせることを試みる。キャベツは黄色い素敵な花だ、
ダイコンはまさに十字の白い花だ。ブロッコリーのてんこ盛りの花には驚かされる。ゴ
ボウの赤い花にはなにやら気品がある。〈花〉という概念は、必ずしもみんなに常識化
していない。この本は植物における「花と実」の基本を考えさせてくれる。
 身近なプランターなどでも、ちょっと野菜を植えてみたくなる楽しい本だ。 
                                         2003, 7刊 700円

                      「7月新刊案内」