―新刊書評―  9月
 
『ものを冷やす』(サイエンスシアター・シリーズ)   板倉聖宣著 仮説社  
 庭に打ち水をすると涼しく感じられるのは、水が気化熱をうばうからだと教わってき
た。水分子が蒸発するとなぜ温度が下がるのか。また、氷に塩をまぜるとかなり低い
温度にすることが出来る。「寒剤」として中高校などで習ってきたことだが、氷と塩が
触れるとなぜそんなにも温度が下がるのだろうか。
 これらの疑問に、実験を通してわかりやすく説いたのがこの本である。
 [第1幕]〈ものを冷やす方法〉に次のような問題がある。「カップにお湯を注ぎ、ふ
たをせずに自然に蒸発するままにしたとき、1分間にどれくらいの重さが減ると思い
ますか。」(本文要約) この問題で、冷えているということは、同時に水分子が気体
になってにげていく現象であることが確かめられる。[第2幕]〈蒸発のなぞ〉で、こ
の気化熱に対する説明が丁寧にされていく。頭の中にだんだんと分子運動のイメ
ージができ上がってくる。「仲間の分子の束縛を振り切って空中に飛び出すのにい
る運動エネルギー」が冷却に導くのだそうだ。なかでも、折れ曲がったガラスの管の
中で、片方の水を気化させるだけでもう一方の水を凍らせる実験がおもしろい。「こ
んなことができるのか」と驚かされる。〈寒剤〉の原理も、〈氷の中の水分子が氷の束
縛を振り切って液体の水になる〉ことだという。なんのことはない、氷にまぶした物質
が水を吸い取っているに過ぎない。気化して冷されるのも寒剤の冷却も理屈は同じ
だ。
 日常のさまざまな現象も分子の動きで見ると視野がぐっと広がってくる。そういえば、
かき氷もしっかり砂糖をまぶすと寒剤効果がてきめんに出る。
                                  2003, 8刊 2,000円

『校庭の1年』      たかはしきよし絵文 岩瀬徹監修 偕成社 
 この本は、千葉県のある小学校の校庭の片隅を一つの観察ポイントとして、一年間
同じ場面を同じ視角で繰り返し描かれたユニークな絵本である。同じ場所を写真で連
続撮影した本は何度か見たが、ずっと絵で描いた本は初めてである。
 この本では、春から次の春まで、ごく身近な〈雑草〉の成長や変化を中心に、同じ場
所を実に20回も連続的に描いている。ふだん子どもたちも訪れない校庭の片隅も、
〈雑草〉や小さな生き物たちの日常生活の場であることがよく伝わってくる。
 はじめは、3月中下旬の場面から。セイヨウタンポポ、オオイヌノフグリ、ホトケノザ、
ナズナ、などがちらほら花をつける。それが、4月上旬の絵になると、もうお花畑に変
身、キタテハやモンキチョウなどもやってくる。
 「それぞれの草たちはどのように姿を変えていくのでしょうか。」
と問いかながら、次の4月中下旬の場面に移っていく。ほんの数週間の間に、草たち
はどんどん成長し変化していく。
 6月上旬が過ぎ、次の6月中旬の絵は急に枯れ果てた草原に変わっている。「あれ
っ?」と思っていると「草刈りがありました。」とある。この著者は、人間が開墾した場
所に生える〈雑草〉と、自然の野山に生える〈野草〉とを区別している。
 最後に「この本の見方と解説」の項があり、26種の〈雑草〉をカレンダー風にまとめ
ている。身近な〈定点観察〉のおもしろさが伝わってくる本である。
                                    2003, 7刊 2,000円 

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