―わたし好みの新刊―  11月
                     
『ちいさなき』(ちいさなかがくのとも)  神沢利子著   福音館書店
 幼児向けの素敵な絵本である。絵本作家の神沢利子さんと,植物絵を書き続
けている高森登志夫さんとの初めての合作とある。
 森の中の実生の〈ちいさなき〉と〈親の木〉と対比させながら,森の中の植物の
つながりに目を向けようとした話になっている。子どもの視点から言うと,いや大
人の視点でも,あの小さな実生の木と,樹高十数メートルの大木と同じ種だと聞
いてもなかなかつながらない。大木を見るとたいていは圧倒されてしまう。しか
し,その大木も生まれた時はほんとに小さい樹木だ。この小さい木を見ると,思わ
ず「どんどん大きくなれよ」と声がけしたくなる。
 この本を読んでもらっていると,小さな命をはぐくむ幼木に,子どもたちの目が注
がれてゆくでしょう。神沢さんのやさしい呼びかけが効を奏している。そして,そ
れはまた小さな命を授かった子どもたち自身の命と重なっていくに違いない。
 絵本では,紅葉するカエデ,黄葉するかばの木,常緑のモミの木が登場する。そし
 「ここにも ここにも みぃつけた /ちいさな き あかちゃんの き/
  おかあさんの きは どこにいるの?」
と,実生の木がいくつか描かれていて,次に
 「ここよ わたしが おかあさんですよ」
と,同じ種の大木が描かれている。くりかえしの手法がまた楽しく読める。
 知識絵本ではないが,自然の大きさを感じる絵本である。
                            2003, 10刊 380円 
 
四方津(しおつ) はる なつ あき ふゆ』 たなかしょうこ著   文芸社
 著者は山梨県上野原町四方津の小中学校に長年勤めていた先生である。あ
る日,子どもたちと理科の学習の一環として近くの野山に散歩に出かけ,四季折
々に織りなす自然の美しさに目と心を奪われ,四方津の自然のとりこになってし
まった。その感動の数々を絵に描き始め, 一言言葉も書き添えた。そうして出
来たのがこの本である。いわば,アマチュアの自然賛歌の本である。
 この手の本はどこにでもあるようだが,この本には何か読んでみて,すっと心が
引かれる。素朴な自然の美しさがほのぼのと伝わってくる。子どもも大人もこの
本を見ると,日本の自然を見直すに違いない。絵で歌い上げた里山賛歌の本で
ある。
 「 1月の おわり
 白い 息を はきながら 枯れ野を 歩いていると
 とつぜん ピチピチと まいあがるもの
 「あっ! ヒバリの声。 
という一節で始まる。同時に,独特のヒバリの絵が飛び込んでくる。
 メジロ, ウグイス, シジュウカラ, … タンポポ, 野イチゴ, スミレ, …とどこの里山
でも見られる生き物たちが次々と登場する。山に登る月や冬鳥, ムササビが登
場して一年の締めくくりとなる。               2003, 10 刊 1,300円 

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