―わたし好みの新刊書評―  1月
なぞのサルアイアイ』(たくさんのふしぎ)   島泰三文・笹原富美代絵
 まずは申年の話題になるサルの話。
 正直,「アイアイ」などというサルがこの世にいたとは初めて知った。「アイアイ アイアイ みなみのしまの…」と歌われるなぞの動物かと思いきや実在のサルである。著者はこの珍しいアイアイの研究者である。それにしてもこのアイアイ,その生態も変わっている。地球上にはいろんな生き物がいるが,こんなにも奇妙な,いやある意味では高等な生き物がいるとは,ますます,自然界の懐の深さに驚かされる。
 アイアイは18世紀に発見されリスの仲間とされていた。しかし,百年後にやっとサルの仲間だとわかったという。それほどに奇妙な姿形をしている。「マダガスカルの無人島にアイアイを放した」というフランスの科学者の報告をもとに,著者はアイアイを探しにマダガスカルのジャングル無人島に足を踏み入れる。
 やがてお目にかかったアイアイ,そのアイアイのものを食べるしぐさから,アイアイの主食をさぐりあてる。そして,その主食の食べ方からアイアイの奇妙な姿のなぞにせまっていく。主食はカロリーが高い,ラミーという樹の固い種子の中の〈仁〉だという。高級な栄養価の高い食べ物だけを効率よく食べていることになる。
 この本からは,推理と観察を繰り返して新たななぞに迫っていく科学研究のおもしろさも味わえる。まずは,年始めの読書にいかが。  福音館書店 2004,1 刊 700円
 
『キタナイはキレイ キレイはキタナイ』  藤田紘一郎著  
 まずはこのタイトルを見て「何?どういうこと?」と疑問が先に立つ。
 最初の項「きたないものってなんだろう」で,数々の常識をくつがえされる。〈バイ菌がわたしたちを守ってくれるのです〉と初めにある。これは,「よく聞く話だ」と思いながら読み進めていくと,「トイレの便座の400倍もの細菌があなたの会社の机にいる。」「もっとも細菌の多いのは電話の受話器,机,水道のじゃ口,…」「細菌がまったくいないのは,出たばかりのオシッコ」と言われてまずは驚く。
 ここで,著者は「バイ菌とよばれている細菌が〈きたないもののおおもとだ〉とする私たちの考えは完全に間違っている」「バイ菌には…数からいうと,私たちのからだを守っているもののほうが圧倒的に多い」と説く。続いて常にわたしたちの体を守ってくれている「常在菌」の話に入る。「なるほどそうか」と教えられる。
 今はアレルギー皮膚炎で悩む子どもも多い。その原因としては,室内のカビや細菌が影響していると思われやすいが,実際は日本人のキレイ好きが原因だという。あのO157細菌も「キレイ社会」しか存在しない大腸菌の〈奇形種〉だそうである。
 これらの話のあと「ウンチ,オシッコはきたなくない」「きよらかで美しい排泄物」「生きるために必要な〈きたないもの〉」「〈キレイ社会〉が環境をよごしている」「清潔のいきすぎはビョーキだ」など,世間の見方をくつがえすような内容が続く。 最後に「きたないものの存在をゆるさない社会」こそ問題ではないかと問いかけている。これからの社会に生きる子どもたちにはぜひ読んでほしい一冊である。
                                2003,2刊 実業之日本社 2,000円

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