―わたし好みの新刊書評―  2月

『熱と分子の世界』   板倉聖宣著       
物質の三態について,分子原子のイメージを確実に出来る楽しい科学読み物
である。まず第一幕は〈三態変化〉で始まる。学校で習ったおなじみの話である
が,〈固体=固態〉〈液体=液態〉〈気体=気態〉とこだわるところがおもしろい。「なる
ほど,固体も個々の原子分子ははげしく動こうとしている状態なのか」と今までの
イメージをくつがえさせられる。〈昇華〉のイメージも確実になる。子どもたちを模
したイラストがいい。食塩の〈ナトリウム原子と塩素原子の電子のやりとりの様子〉
も,わかりやすい図ですぐにのみこめる。第二幕は「二態変化と四態変化」とある。
初めて聞く言葉に「あれっ!」と驚かされるが興味津々で読んでいける。ドライア
イスを使った楽しい実験が続く。さらに〈四態変化〉へ。「四態変化ってどういうこと
だろう」と疑問が先に立つ。でも話を読んでいくと,身近にある現代機器のなぞが
つぎつぎに解けてくる。〈液晶〉など,現代科学の世界が急に広がってくる。
 後は,太陽光に含まれている「赤外線の発見物語」の読み物がある。「なるほど,
ハーセルさんはそういうきっかけで目に見えない〈赤外線〉に気づいたのか」と楽し
く読める。続いて,分子運動を身近に体感できる「爆発」の実験プランが対話風に紹
介されている。最後に,岩波科学映画「動きまわる粒」のシナリオがつけられている。
                         仮説社 2004,1 刊 2000円
 
『南極大紀行』             NHK「南極」プロゼクト編  
 この本は,子どもの読み物として書かれたものではない。NHK南極プロジェクトチ
ームが中心になってまとめた南極の〈今〉レポートである。放送記者から見た南極
の〈今〉をなまなましく伝えている。中学生以上なら読めるのではないか。
 南極大陸は,今や「冒険の地から地球観測の窓へ」と変身しているという。南極は
北半球の大気も到達しているので,ここでの観測は,地球の環境汚染のバロメーター
役になっているという。施設が良くなったというものの,マイナス70度,80度の世界,観
測隊員にはこの過酷な環境下での観測に大変な体力と精神力を要求される。
 「南極から地球を見る」という項もおもしろい。「なんと,地上の雪や氷の90%は南
極にあるという。その氷がすべて溶けると,世界中の海面が70mあがるという。そん
なに多くの〈水〉が南極に積み上げられているのかと驚かされる。
 今回のNHKのプロジェクトの目的は,南極から地球環境を見つめることにあるという。
フロンの観測を初め,二酸化炭素量観測も気になる。20年前と比べると二酸化炭素
量は10%は増えている。なんとしても,これ以上の二酸化炭素の増加はおさえないと
今に大変なことになるなと実感する。
 南極で唯一つ楽しみなのはオーロラを見ることだという。昭和基地は〈オーロラ帯〉
の下にあり,〈オーロラ爆発〉と呼ばれる豪華絢爛たるオーロラショウが楽しめるという。
火山の話や海底の話など,興味のある内容が目白押しだ。
 各項,独立してレポートされているので,どこからでも興味深く読める。       
                    2003,12刊 NHK出版 1,900円   (西村寿雄)

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