―わたし好みの新刊書評―  3月

   
 『おじいちゃんは遊びの名人』      多田千尋著
副題に「三世代で楽しむ伝承遊び」とある。こうした伝承遊びの本は多く出
ているが,この本からは,子への伝承を大切にしたい大人の願いがよく伝わっ
てくる。著者は東京中野で「おもちゃ美術館」を営んでいる〈伝承おもちゃ〉こ
だわり人である。
 内容は,〈1.むかしのあそび〉で,〈けん玉〉,〈竹馬〉など8点,〈2.からくりおも
ちゃ〉では,〈かわりパズル〉や〈六角がえし〉など6点,〈3.工作あそび〉で〈ぶ
んぶんごま〉〈紙のけん玉〉など10点等,全部で52点の遊びを紹介をしている。
 それぞれの項では,遊び道具の作り方から遊び方までわかりよく書かれてい
る。〈けん玉〉など習熟の要するものには,それなりの練習のこつも書かれてい
る。
 最後に「おうちの方へ」と題して著者の思いを語る。「伝承遊びは人から人へ
と伝わっていくものです。そこに人がいなければ始まりません。子どもたちは遊
びを通して人の愛情が伝わり,人との関係を形成していきます。…」と書いて,伝
承遊びはまた心の伝承であることを語っている。
 素朴な材料でもの作りを紹介するなど伝承遊びの心を伝えている本である。
子どもが読む本というより,孫との対話を大切にしたい〈おじいちゃん〉の参考に
なる本である。同シリーズで『おばあちゃんは遊びの達人』という本もある。こち
らは,お手玉,おりがみ,手あそび等女の子の遊びの紹介である。
                  ひかりのくに 2004年1月刊 1,180円  
 
 『ツバメ観察記』 (たくさんのふしぎ)   孝森まさひで文・写真
 鳥好きの著者が,身近に見ているツバメに興味を持って,巣作りから子育てま
でを記録した観察日記風の写真本である。もう,春はすぐそこまで来ている。
 かつて,日本最初の鳥学者,内田清之助が著書『渡り鳥』(1941刊)で
「木が芽を出し,花が咲き出す。まるで音のない嵐のように春は私たちを忙しく包
 んでしまうのだ。そういう音もない嵐の中に私たちはまた一つの春の姿を見出
 す。それは地をかすめて,すいすいと軽やかに飛んでゆく燕の姿である。」
と書いたの文章を思い出す。ツバメのすいすいと飛び交う姿は,春の訪れを待っ
ている雪国の子どもたちには,とりわけ心待ちにしている光景だろう。
 というわけで,今月はツバメの本の紹介である。
タイミング良く「たくさんのふしぎ」シリーズで刊行された。
 この本では,日ごとに変化していくツバメの巣作りや子育ての様子が生き生き
と写し出されている。著者のカメラ技術はたいしたものである。抱卵の時,メスは
ひんぱんにえさをとりに出てその間卵は温められていないと文にある。ツバメは
どのくらいの時間卵を抱いているのだろうか。著者の観察によると,一回の親鳥
の帰巣中では平均10分ぐらいだそうで,おまけに巣を出ると五分ほど帰ってこな
いという。そんなに無防備でいいのだろうかと著者もいぶかる。それでも,雛は日
に日に育っていく。日ごとにたくましくなる雛たちの姿が楽しめる。
 ツバメの姿を心待ちにしている子どもに見てほしい一冊である。
                   福音館書店 2004年3月刊 700円 (西村寿雄)

                「新刊案内」