―わたし好みの新刊書評―  5月

 『ヒサクニヒコの恐竜図鑑』     ヒサクニヒコ著  ポプラ社
著者は,漫画家, 絵本作家,イラストレイターとして広く活躍されているが,片や古く
からの〈恐竜〉研究者としても知られている。恐竜の子ども向けの本もいくつも出
版されている。今回は図鑑として, 現時点での恐竜研究の成果を集大成された。
この本は, 図鑑とはいうものの解説がしっかりしている。
 「はじめに」で, 恐竜研究の経過や現段階での研究成果を簡潔に解説されてい
る。
 著者は,現段階での恐竜の分類を下記のようにしている。
 1. 獣脚類 2. 古竜脚類 3. 竜脚類 4. セグソサウルス類 5. 鳥脚類 6. 剣竜類
 7. ヨロイ類 8. 堅頭竜類 9. 角竜類 10. ハドロサルス類 
 なお,各種類の解説もそれぞれの項でなされている。
 「なぜ, 恐竜はたくさんの種類がいるのか」で,今もたくさんの種類が見つけられて
いる。まだ学問的に整理されていないだけで今後さらに増える見通しという。ちょう
ど恐竜の繁殖時期とあわせて大陸移動が進行していったことが恐竜の多様な出現
の原動力になったという。その時々の環境に恐竜たちは適応していったらしい。
 最後に,未だに議論の続く,恐竜は〈温血動物だったか〉〈冷血動物だったか〉につ
いて〉著者は,恐竜には「効率のいい代謝システム」があったはずと予想する。
 各恐竜のイラストは著者特有のタッチで精密に描かれている。恐竜の研究はまさ
に日進月歩だが, 現時点での恐竜研究の成果が見渡せられる本である。
                          2004年3月刊 1,500円 
 
 『テントウムシ』    今森光彦文・写真      アリス館
以前に出たこの著者の『カマキリ』『ダンゴムシ』に続く〈やあ!出会えたね〉シリー
ズである。どの本もストーリーがやさしい。
 この本でも, 各ページにある著者の率直な語りかけが, すばらしい写真とともにリア
ルに伝わってくる。小さな〈テントウムシ〉のその場その場の写真からテントウムシの
〈豊かな表情〉が感じられる。読んでいて, ほっとさせられる場面が多い。
 著者は, 豆つぶのような小さな生き物の羽化するようすをじっと見ながら
 「ぼくの心臓は高なりました。そして, 10分後, さなぎからぬけでてきたのはレモン
  のように黄色いテントウムシでした。」
と書き記す。そして次に, ほんとに黄色い, さなぎから抜け出たばかりのみずみずしい
テントウムシが写し出されている。しばし, 自然の造形の美しさに見とれる。
 後半では,子どもの頃のテントウムシのいたずらに思いをはせる場面がある。一本の
棒の上をテントウムシをはわせて, テントウムシが端まで登り詰めると棒をひっくり返す。
テントウムシは上へ上へと進む習性があるから折り返してまた上へ進む。
 「〈天道虫〉は,まさに名前のとおり天につうじる道をかけてのぼる虫なのです。」棒を
上りつめて,方向を確認して?飛び上がるテントウムシの写真がいい。飛翔中の写真
も見事だ。
 雑然とした日頃の生活と離れて, 小さな命の悠久の世界を見る思いで読める。   
                         2004年3月刊 1,400円  (西村寿雄)


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