―わたし好みの新刊書評― 6月
『アリジゴク観察事典』
小田英智文/小川宏・新開孝写真 偕成社
本書はおなじみの「観察事典」シリーズである。サブタイトルに「脈翅目のなかまた
ち」とあるがウスバカゲロウとクサカゲロウについて主に書かれている。
最初にアリジゴクをつくるウスバカゲロウの生態が写真で紹介されていく。だいたい
昆虫類は気門が発達していて行動的な生活機能をもっている。なのに,このウスバカ
ゲロウはもっぱら土の中にもぐりこんで近づく相手を襲うという〈待ちの姿勢〉の虫で
ある。巣穴に迷い込んだアリを見事に引きずり込んでしまう様子を,克明に写真で紹介
している点がいい。「獲物の震動を敏感に感じ,きばの大あごをはねあげて,バサバサ
と獲物に土を投げかけるのです。」とある。小さい体に具わった不思議な機能だ。ウ
スバカゲロウの変態の写真も見事だ。幼虫の脱皮殻には〈毛細気管〉も見える。刻々
と羽化していく記録写真も見応えがある。
次に紹介されているのは,岩の上に巣を作るクサカゲロウである。体の色は,ほんと
苔むす岩肌とそっくり。これでは野鳥にもおいそれと見つからない。別名〈ウドンゲの
花〉と称されている卵の生み方がユニークである。「なるほど,こんなふうにして卵を産
むのか」と納得させられる。また,クサカゲロウにとってアブラムシはなくてはならぬ存
在であることがよく記録されている。
最後に,特異な形をしているツノトンボや鋭いカマを持つカマキリモドキや幼虫時代
を水中で過ごすヘビトンボの紹介もある。それぞれ同じ〈亜目〉なのに,幼虫の生活環
境がまるで異なる。進化の途中に位置する「昆虫」だからだろうか。
2004年3月刊 2,400円
『地球は火山がつくった』 (岩波書店ジュニア新書)
鎌田浩毅著 岩波書店
久々にわくわくする火山の本が出た。内容は,著者の火山体験から, 噴火のしくみ,
噴火のすがた, 動く大地の話から, 新しい地球の見方へと話が続く。〈火山〉を柱にし
た壮大な〈動いている地球〉物語である。
〈はしがき〉で著者は,火山が気に入った理由として「火山の噴火は簡単な理屈によ
って説明することができる」をあげている。その中身が何か注意して読んでいく。
1986年の三原山噴火での著者の実体験から火山の〈ドラマ〉は始まる。その後,火山
噴火の根源的な話に入っていく。途中で「火山現象の多くは密度によって支配されて
いる」「水が大事なカギとなる」と説く。さまざまな事例から,水が火山噴火に決定的な影
響を及ぼしていることがわかってくる。そのことを浅間山の噴火からていねいに検証す
る。火山灰の研究から巨大噴火のなぞを解き明かす話も壮大である。
そして,いよいよ火山噴火がどうして起こるのかの原理的な話に入る。ここでも〈水〉が
重要な要素として登場する。その後,〈プルーム・テクトニクス〉という根源的な理論で地
球内部の運動や大陸移動説まで解き明かしていく。
最後に著者は, この本での多くの説は〈作業仮説〉であると断った上で,「おもしろい問
題が将来を待っている。それを解き明かすのは,読者の若い皆さんである。」と未来の科
学研究に大きな夢をいだかせている。各文章はとてもわかり易く,用語の説明もていね
いである。著者の熱い想いが伝わってくる。
2004年4月刊 780円 (西村寿雄)
「6月新刊へ」