―わたし好みの新刊書評―  7月
         
 『ぼくらはみんな生きている』     佐々木洋著 講談社

プロナチュラリストと自称する著者が自然観察の大切さを説く。しかし,その自然
観察のぴったりな場所は「都市なのだ」「都市はとても自然が豊かだ」と言う。「大
きな公園,庭園,神社,お寺など,守られた緑の多い都市の方が,野生の生き物が多く
見られる場合も少なくないのです」と続ける。そういえばそうだ。ちょっと常識をゆ
さぶる視点から,都市に棲む生き物たちに目を向けさせてくれる。
 まずは,「図鑑にのっていないカモたち」。近年,カモたちの交雑が多いのだという。
その原因の一つが,度を超した〈餌づけ〉にあると言う。あの橋の上の餌づけも,ユリ
カモメの本来の機能を麻痺させてしまうと警告する。次は,「〈動物園ビジター〉の優
雅な生活」という見出し。上野動物園にはカラスを初めさまざまな動物たちが〈訪問〉
しているという。これは,あまり知られていないユーモラスな話だ。次の「ゲンゴロウ
のルーレット」では,消え去った自然環境の復元を問題にしている。「整備するとき,
どんな生き物がもどってきたか」が大切な目安だという。そして,その地域の三十年
代の自然の姿をとりもどそうと訴える。昔いなかった昆虫が増えても〈自然が帰った
ことにならない〉と言う。
 その他,ライフスタイルを変えて勢力を伸ばしているオオタカやタヌキ,コウモリの話,
タマちゃんの話を初め,外来種やペットの問題なども取り上げている。自然の成り立
ち,自然とのかかわりについて都会人が考える好材料をたくさん提供している。  
                                2004年4月刊 1,300円 
 
『鳥の巣研究ノート』 PART 1      鈴木まもる著 あすなろ書房
 著者は,今までにも『鳥の巣の本』(岩崎書店),『鳥の巣』(福音館書店)などの本を
出している自称〈鳥の巣研究家〉である。この著者独特の鳥の巣に対する見方は
なかなかおもしろい。この本は,今までの著者の研究成果を土台に,豊富なイラスト
と簡潔な文章で,〈鳥の巣〉の意味をわかりやすく読者に話しかけている。
 「はじめに」で,いきなり鳥の巣10個の絵が描かれていて「なんという鳥の巣か,い
くつわかりますか?」と聞かれる。正直これは難問だ。とにかく最初から読んでいく
しかない。第1章「鳥の巣ってなんだろう」から本文が始まる。鳥類が生まれてきた
進化の過程を語った後に,鳥が木の上などに巣を作るいきさつを語る。「なるほど,そ
ういうことか」と納得する。「鳥の巣は,卵を安全にあたため,ヒナが育ってぶじに飛べ
るようになるまでいるための場所なのです」とある。ここらへんはすんなりと読み続
けられる。以下,第2章「いろいろな形の巣があるわけ」,第3章「作り方の秘密」,第4
章「いろいろな材料」と続く。地上や樹上の巣から木の枝にぶら下がる巣まで,海外
の珍しい鳥の巣の紹介もある。それぞれの環境に応じた鳥たちの〈創作活動〉にた
だただ感心させられる。第5章「びっくり材料」では,人間社会にとけ込んでいるしたた
かな鳥たちの姿がユーモラスに語られていく。第6章「鳥の巣からみた鳥インフルエ
ンザ」では,鳥が自然界で暮らしているバランスの大切さ考えさせられる。そのバラン
スを人間が安易に崩すことから様々な問題を発生していると警告する。気楽に読め
る本である。PART2もある。       2004年5月刊 1,260円 (西村寿雄)

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