新刊書評  9月
『アーチの力学』 橋をかけるくふう  板倉聖宣 仮説社
 1996年12月に行われたサイエンスシアターのシナリオを読み物として
再構成して出版された。この本は〈力と運動のなぞをとく〉テーマの第1
巻である。
 この本は,「〈すべての学問と科学の原型である力学を学ぶことが面
白くない〉なんていうことはあり得ないことです」として,楽しい力学へ興
味深く導いている。
 この本のテーマは「アーチの力学」。第1幕は「紙の橋と鉄の橋」。加
古里子さんの『よわいかみ つよいかみ』(童心社)を検証しながら,だん
だんと材料の形による強度の問題にふれていく。そして,第2幕「石で
橋をかける方法」に入る。錦帯橋のようなアーチ橋を,コンビーフの缶詰
や発泡スチロールを使って検証していく。第3幕は「アーチの歴史と力学」。
ここでは,古代ローマの時代から,石を使って強度な建築物を造ってきた
人間の知恵が書かれている。日本にある通潤橋(熊本県)の模型を使い
ながら強度の〈実験〉ができるように工夫されている。そして,「アーチは
半円形しているから強いのか」と問題を投げかけ,〈懸垂線〉に導いていく。
それを受けて第4幕「吊り橋と自転車の車輪」の話に入る。柱と柱の間が
2000mという明石海峡大橋などを例に,超大型橋の原理が語られていく。
自転車のフォークの話とつないでやさしく解説されている。最後は,第5幕
「半力の不思議」に入る。実は,大型橋が安全なのは,この反力を知り尽
くした設計であることがわかる。〈見えない力〉が見えてくるから不思議だ。
 一見無味乾燥な力学の本ではあるが,言葉はやさしく,簡単な実験,作
業を取り入れたりして,全体にとても優しく感じられる本である。 
                             
2004年8月 2000円 
 
親子でトライ!わが家でできる化学実験』 
                   
池本勲・斉藤幸一編著 丸善
 家庭で比較的簡単にできる〈化学実験〉指南書が出た。出版以来かな
りの人気で夏休み半ばもう品切れ状態にある。
 実験ものでも,こうした〈化学実験〉は,特別な薬品や器具がいったりして,
ふつうは家庭ではやりにくい。しかし,最近は何かと多様な品物が出回るよ
うになり,ものによっては手に入りやすい〈薬品〉や〈器具〉もなくはない。そ
こに目をつけて,親子で出来る〈化学実験〉36種を紹介している。「スーパ
ーや薬局など町で手に入る薬品,材料だけを使い,家庭にある道具を使って,
家庭で親子が一緒にできる36もの実験をあつめました。」とある。
 この本の特徴は,最初にイラスト入りで作り方や実験の仕方を簡潔に説
明し,そのあと,それぞれの理屈がわかるように何人かで対話風に解説し
ていることにある。実験の後なぜそうなるのかが知りたくなる。そのような
人たちにうってつけの本である。
 内容的には,もの作り,体験もの,食べ物作り,調べものなど5PARTで構成
されている。
〈ウィスキーでロケットをとばそう〉〈お酢と胃腸薬でロケット〉〈卵が噴水に
塩のパワーで氷に穴を掘ろう 〉〈レモンとミルクでヨーグルト〉〈シリカゲル
を使ってpHチェック〉〈草木染めの伝授ーハーブティーの巻〉〈浮かぶコーラ
と沈むコーラ〉〈犯人は君だ! 残された指紋を探せ〉など36項目。親子で楽
しむのにお薦め本である。
                      2004年6月刊 1,600円 (西村寿雄)


                
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