―わたし好みの新刊書評―  11月

『ふくろう谷のトン』 (大きなポケット)山村輝夫作 福音館書店
 北海道の深い谷にシマフクロウの夫婦が棲んでいる。その夫婦の強さや優しさ,器
用さを,同じ森に棲むキツネが畏敬の念をこめて語る構成になっている。
  「 しかし、この谷のオスシマフクロウは、
   キツネなど相手にしない、狩りの名人でした。
    谷の動物たちは、このシマフクロウを
   そんけいをこめて、〈大王〉とよんでいました。」
 親しみのある語り口調に知らず知らず引き込まれていく。
 雪がとけ出した四月のある日,この夫婦に一羽のヒナが誕生する。そうなると,とた
んに,この〈大王〉も忙しくなる。ヒナが食べやすいえさを日に何度も何度も運ぶ。ヒナ
は日ごとに成長し,六月になると巣穴から外に出て何度も飛ぶ練習をする。しかし,な
かなか狩りにまでいけない。〈大王〉は,見事な狩りの技を子どもに披露する。
 こうして成長した子どもも,やがて巣分かれの時期が来る。あるとき突然,親がわが
子を非情にも追い出す。互いに強く生きていくための試練だ。
 力強いタッチの絵と共に,読むにつれ森にいる錯覚と臨場感が伝わってくる。
 自然の本も楽しく読めなければ,子どもたちにつきあってもらえない。この本は,専
門家の目も通っているし,〈登場人物〉の感情にあまり左右されていない。自然の姿
を生き生きと描くこういう本も,楽しい〈科学読み物〉として見つめていきたい。
                          2004年11月 刊 770円 
 
         
『なぞの渡りを追う』池内俊雄著 ポプラ社
副題に〈オオヒシクイの繁殖地をさがして〉とある。オオヒシクイは,日本でも大きな
ガンの一種である。冬,日本の東北,北陸,滋賀方面に飛来し,春になるとシベリア方
面に帰って行く渡り鳥である。
 つい最近まで,そのオオヒシクイの行く先が日本の研究者にはわからなかった。そ
して,ロシアの研究者もオオヒシクイがどこで繁殖しているのか調べてはいなかった。
そこで,著者を初め日本の研究者数人とロシアの研究者が合同で,オオヒシクイの
渡り経路調査と繁殖地調査にのり出した。この本は,その記録である。
 オオヒシクイの名は,菱の実を好んで食べる「大菱喰」から来ている。しかし,歯の
ない鳥類であんな固い菱の実をどうやって食べるのか疑問がわく。嘴にはさんでこ
ろころ回転させて突起を取るのだという。そして,ぐっと飲み込んで胃の中の砂嚢で
すりつぶすのだという。なんとうまい体の作りだろうか。
 さて,広大なシベリアの大地で,鳥の繁殖地をさがすのも難行苦行だ。広大な原野
に目撃者もほとんどいない。わずかばかりの情報をもとに,足跡や糞など丹念に調
べていく。ついには,標識をつけたり,小型送信機をつけてヘリコプターで追跡したり
する。それでも最後は徒歩で繁殖地を確認していく。
 まるでカルガモ親子のように,子連れオオヒシクイ遊泳の場面を目撃した調査団は
共に歓喜の声をあげた。野鳥調査のダイナミックさとオオヒシクイの生態解明の過
程が興味深く綴られている。        2004年9月刊  950円 

『どうぶつさいばん ライオンのしごと』 竹田津実作 あべ弘士絵 偕成社 
 なかなか重いテーマを持った絵本である。生きるとはどういうことか,生物の食物
連鎖とは何かを〈動物裁判〉という筋書きで問いかけてくる。
 草原の大きな岩の上で〈どうぶつ裁判〉が始まる。
 訴えているのはヌーの子ども。訴えられているのはライオンのお母さん。
 「ヌーの子は、眼にいっぱいなみだをうかべて ライオンをゆびさし、
  おかあさんがころされ、たべられたとうったえました。
〈わたしのかわいい子どももよー〉といったのは、シマウマ。
〈このまえ…〉〈あそこで、〉とあちこちから声。
〈そうだ、…そうだ〉と、大合唱がおこりました。」
 さて,訴えられたライオンのおかあさんは
 「だってころしてほしい。たべてくれーと、あのヌーがいったんだもの。」
と弁明する。
 その後,ヌー,ライオン両方の〈証人〉として,次々と動物が〈証言〉する。最後に
 「わたしたちは、なかまをまもることが いちばんたいせつです」とヌーの老人
 「わたしたちは、オオカミの子どもを 一匹はのこします」とモンゴルの羊飼い
が証言して終わる。さて,裁判長ハイラックスの判決は何だったのでしょう。
 獣医,竹田津実さんの視点が安易な感情論をおさえます。豪快なあべ弘士さんの
絵がこの裁判の〈重い課題〉を冷静にさせてくれます。
           2004年9月 1,400円

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