―わたし好みの新刊書評―  12月

                
『もちの絵本こ』 (つくってあそぼう)   江川和徳 農山漁村文化協会
 今年もいよいよ12月。年の暮れは各地での〈おもつちき〉が子どもたちの楽し
い行事の一つになっている。近年は,学校や子供会,保育所,老人センターなどで
も〈おもちつき〉がよく行われている。今月は,そうした行事にちなんでこの本を
取り上げた。
お馴染み,農文協の〈つくってあそぼう〉シリーズの一冊である。
 いったいいつごろから,お正月にお餅を食べるようなったかのお話から始まる。
もともと,いろんな行事にお餅はつきものだった。お正月の餅は新年に〈神さま
といっしょに食べるごちそう〉が始まりだそうだ。お餅の〈モチモチの秘密〉がお
もしろい。デンプンの性質まで解説してあり,ちょっぴり〈餅博士〉になれる。
 「杵と臼なしに,おもちをつく方法」もある。これなら,すり鉢一つとすりこぎでお餅
が出来あがる。簡単にできそうで,すぐにでもやってみたくなる。
 一口に〈おもち〉といっても様々。〈豆もち〉〈草もち〉〈雑穀もち〉,〈干しもち〉〈か
たもち〉〈もち菓子〉と工夫次第で,いろんなお餅ができそうだ。
 最後に全国各地のお雑煮がずらり。餅の形も角餅,丸餅とさまざま。お汁も,ミソ
汁,すまし汁とこれまた様々。あんこ入りのおもちを入れる地域もある。広島の
〈かき雑煮〉,香川県の〈えび雑煮〉,千葉県の〈のり雑煮〉は地域性がよくわかる。
 読んで,作って,食べて,知識の増える楽しい絵本である。餅つき体験を大切にし
て,「あたたかい,うるおいのある人の輪,地域の輪が広がってくれればと願ってい
ます」と著者は書く。                   2004年5月 刊 1,890円 
 
 『地球のステージ』     桑山紀彦著   メイツ出版
この本は,科学の本というより,広く世界の人々のくらしの実態に目を広げる本で
ある。それぞれの社会を構成している人間の各地の暮らしの実態を知ることは,
ひいては〈社会的な判断〉の基礎になる。その意味から,この本も,広い視野での
科学読み物である。
 この本は,タイやカンボジアでの難民救援活動,イラクでの医療活動などに献身
的な活動をしている青年医師のレポートである。実際に,海外での救援活動を続
けながら,笑顔とやさしさを絶やさない世界の人々の「心」をレポートしている。
 戦火の絶えない地域にも著者は出向く。戦争まっただ中のソマリアでは,家も
銃弾の跡でぼろぼろになっている。それでも,「今度こそ幸せになるぞ!」と生きる
エネルギーにあふれる人々がいる。独立運動のあおりで銃弾の跡が多く残る
東チモールやサラエボには,地雷に身の危険にさらされての生活を強いられてい
る子どもたちがいる。「校庭から子どもたちが見ているものは何だと思いますか。
それは戦車です。」
「子どもたちに好きなものを描いてと言うと,必ず出てくるのが戦車や銃,燃える家…。」
 そんな中でも,風船と折り紙で世界の子どもたちと仲良しになっていく著者がいる。
 今の日本という国と世界各地の実態とはあまりにもかけ離れている。わたした
ちは,今何ができるか。将来を見据えた行動が一つでも動き出すことを著者は願う。
著者はNPO「地球のステージ」の代表理事。公演活動を通じて,世界の難民への
救援活動を続けている。             2004年7月刊  1,500円 

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