―新刊書評―  2005年2月

                             
   『吹き矢の力学』     板倉聖宣・塩野広次著   仮説社
 サイエンスシアター「力と運動」シリーズの第2巻目。ここでは「動く物体
に作用する力と動く物体の速度」のことが取りあげられている
 力と運動の問題は,なにやら計算ばかり出てきて難しそうだと思われが
ちだが,この本には一切の計算はない。出てくる「問題」に予想を立てなが
ら,そして,登場している4人の子どもたちの討論も聞きながら,楽しく読み進
めることが出来る。ぜひ,ここに出てくる秀夫くんたちと「力と運動」の原理に
つきあってみられてはいかが。
 第1幕は「ものを動かす力とまさつ力」。あんがい誤解されている摩擦力
について
実験を交えながら話が展開されている。最後に「お寺の釣り鐘も
指一本で動く」なんて〈不思議な話〉もある。第2幕は「ストローとマッチ棒の
吹き矢」。ストローを使った実験から長い距離の運動エネルギーの威力が
体験できる。第3幕は「〈吹き矢の力学〉と落下運動」。吹き矢の力学は雨
粒の落ちる速度など,落下運動とも結びついていることがよくわかる。第4幕
は「実用的な吹き矢」。吹き矢は昔から遊び道具としてあっただけでなく,狩
猟用の実用品だった紹介もある。今ではスポーツ吹き矢としても実用化さ
れているという。ここはお話が楽しい。第5幕「ものをうまく動かす方法」。
〈技術〉と〈技能〉の話が出る。紙トンボやぶんぶんゴマ,ヨーヨーなど,ちょっ
とした技能の習得でうまくまわせられることも書かれている。
 総じて,ものの運動に関する原理が,実験を通して楽しく体得できる。
                           2005年1月 刊 2,000円 

     
 『雑草たちの陣取り合戦』  根本正之著    小峰書店
 一般に,〈雑草〉という言葉からどのようなイメージを持つだろうか。所構
わず空き地や畑地に入りこんできて,栽培植物も駆逐してしまう迷惑千万
な草と思われているのが普通ではないだろうか。しかし,「雑草管理」とい
う発想で,個々の〈雑草〉の性質を知っていけば,除草剤に頼らない有機農
法も可能であるという。〈雑草〉も使いようによっては有益な植物というか
らおもしろい。
 最初に,そもそも「雑草とはなにか」が書かれている。〈雑草〉とは,「人間
がかく乱した場所に生育空間を広げてきた植物である」と定義されている。
つまり荒れ地のパイオニア植物である。だからこそ,〈雑草〉には,底知れな
い生育能力がかくされている。時と場合によっていつまでも休眠する性質
がある種子,発芽後いち早く成長する能力,不定根の性質を持つ茎,自家和
合(自家受粉)をする花,遠くまで移動するしくみを持つ種子,他の植物の成
育を抑えるホルモンを出すものなど,さすが,したたかな特性を持つ。そうし
た,〈雑草〉の生態がくわしく語られている。
 著者などの研究によって,こういう〈雑草〉を〈やっかいもの〉として駆除す
ることばかり考えるのではなく,農地や牧草地の雑草管理に役立てようと
考えられるようになってきた。「耕作地に発生した雑草をすべて取り除くの
ではなく,雑草の害が及ばないように抑えればことたるのです」と著者は
言う。「雑草で雑草を抑えることもできる」とも書く。「毒でもって毒を制す
る」発想がおもしろい。この本を読むと,なによりも〈雑草〉の見方が変わる。 
                         2004年11月刊 1,400円    
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