―5月新刊案内書評―


『湿地に生きるハッチョウトンボ』 水上みさき写真・文  偕成社
 〈ハッチョウトンボ〉ってどんなトンボだろうか。オスの体は真っ赤でアキ
アカネ,ショウジョウトンボと勘違いしそう。でも,体長がうんと小さくて2cmに
もみたないトンボだ。あまり見かけないが,意外と各地の湿地に生息してい
るらしい。この小さなトンボから,でかい地球の環境問題を考えていこうとい
うテーマの本である。
 著者の水上みさきさんは,このかわいいトンボに魅せられて,長年カメラで
追い求めてきた。ページのあちこちに著者ならでは魅力的な写真が目に
つく。
 ハッチョウトンボはどんなところに棲んでいるのだろうか。静かな高原な
のだろうか。棲んでいるのは都市近郊のごく浅い湿地だという。こんな不安
定なところでよくも延々と命をつないできたものだと驚かされる。 
 「ハッチョウトンボの一年」の中ではヤゴの写真もある。ヤゴと言ってもさ
すが小さく6mm程度,ミジンコや微生物を食べて大きくなる。ヤゴからの連続
羽化の写真も美しい。羽化して2週間ほどで雄は真っ赤に変身していく。雌
は,独特のしま模様が目につく。
 最後の「湿地とハッチョウトンボの一年をみつめて」で著者は,ハッチョウト
ンボの限られた環境について説く。〈ハッチョウトンボのすむ公園〉作りの紹
介もある。小さな命を大切にする運動は,いつしか子どもたちの心の支えに
なっていく。
 トンボなど動き回る昆虫の写真はなかなか難しい。著者は海野和男さんに
師事しなかなか腕を上げている。出てくる写真はなかなかのもの,いいチャン
スをとらえている。                     2005年3月刊  2,100円                                 
 
 『ぼくは少年鉄道員』   「たくさんのふしぎ」西森聡著 福音館書店

 子どもたちの夢をこれほど見事に実現している例は他にないのではないか。
ドイツの人々は,子どもたちの〈夢〉を心から大切にしているんだなと強く感じた。
 場所は,ドイツ・ヴュールハイデ公園。120haに及ぶ公園内をベルリン公園鉄
道(BPE)のSL列車がたくさんの乗客をのせて走らせている。そのSL列車には,
なんとドイツ鉄道の制服を着た凛々しい少年たちの笑顔があふれている。「じ
つは,BPEは、子どもたちが中心になって列車を走らせている鉄道なのです」と
本文にある。もちろん学業のある少年たち,週末や長期の休みに少年鉄道員
として働いている。
 「クラウスは11歳でBPEに入りました。最初の1年間は車掌や駅員の見習いで, 
 お兄さん,お姉さんたちのあとについて,いろいろな仕事を覚えました。2年目に
 は,正車掌になり,ひとりで列車の乗務をまかされるようになりました。また,駅員
  として,切符の販売をおこなう出札の仕事ができるようになりました。」
とある。このようにして少年たちは順々に経験をつんでいく。
 「公園鉄道の歴史」によると,もともと社会主義国の東ドイツで行われていたこ
の制度が,東西ドイツ統一後も,「〈公園鉄道はこのまま続けてほしい〉という子ど
もたちの希望が多かったので,そのまま残ることになったのです」と,著者は書い
ている。
 それにしても,こうした子どもたちの夢の実現に向けて社会体験をさせている国
は他にないのではないか。日本の子どもたちはこれを読むとどんな感想を持つ
だろうか。                    2005年5月 刊 667円 

               
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