―新刊書評―  2005年7月

『衝突の力学』      板倉聖宣・塚本浩司著   仮説社
 以前に東京で行われていたサイエンスシアターシリーズの一冊である。
 まえがきに「衝突というとあなたはどんなことを思い描きますか。」と問い
かけている。わたしたちはどうしても衝突というと瞬間的な事故などを想像
する。しかし,衝突現象はごく身近なもので,ちょっと科学の目で見ると楽し
い問題がたくさん潜んでいることがわかる。そのような楽しい話題をこの本
は順を追って提供している。この本に出てくる題材は家庭や公民館などで
も簡単に実験できるものばかりである。この本をもとに,子どもたちと物理実
験を楽しまれてはいかが。
 第1幕では〈衝突と瞬間〉の問題を取り上げている。バットでボールを打っ
たときの話,金槌で釘を打つ話,土木現場での鉄杭打ち込みの話等が順を
追って解説されていく。〈瞬間を見る〉項ではクローズアップ写真も添えられ
ていて興味深い。第2幕は〈ダルマ落としの力学〉。ここからは身近な問題
が続く。討論と実験を交えられているのでみんなで体験しながら読み進め
られる。だるま落しはちょっとしたコツでだれでもうまく成功する。ここではそ
の「〈ダルマ落し〉のなぞ」を解明する。昔の科学読み物を参考に楽しい話
題が続く。第3幕は〈2つの円板の衝突実験〉に入る。二つの小さな円板(コ
インなど)を使って実験しながら重さと速度の関係をつかんでいく。〈運動量
保存の原理〉までも解き明かす。第4幕〈連続衝突のふしぎ〉では,あのバラ
ンスボールのなぞにせまる。,第5幕〈ものが跳ねるとき,跳ねないとき〉では
すっとびボールのなぞにせまっている。  
 力学も楽しい科学の世界であることをこの一冊で十分に体験させてくれる。
                           2005年6月刊  2,000円 

『ぼくの鳥の巣絵日記』   鈴木まもる著  偕成社
 この本は,「鳥の巣博士」こと鈴木まもるさんの一段と楽しい鳥の巣絵本
である。鈴木まもるさんは『鳥の巣の本』(岩崎書店)など,何冊か鳥の絵本
を出版している。どれも些細な筆のタッチで生き生きとした野鳥の姿を表現
している。山の中の一軒家に20年以上も暮らしているという鈴木さん,自分
の庭や周りの林で巣作りする鳥たちの1年をこの絵本に描いた。身近な鳥
たちの生活史が読み取れる。
 この本は,冬からの情景で始まる。まずは家の回りにやってくる鳥たちの
プロフィールである。木の枝を飛び回るホオジロやエナガ,ヤマガラ,ジョウ
ビタキ,庭にもやってくるメジロ,シジュウカラ,ヒヨドリなどおなじみの鳥たちが
登場する。
 〈山の木の芽がふくらむ頃〉から鳥たちは巣作りと子育てに急に忙しくな
る。ページの大半をさいて,それぞれの鳥たちの子育ての姿がこまめに描
かれている。春,山ざくらが咲く頃から鳥たちは巣作りに忙しくなる。巣の材
料はさまざまで,ネコの毛やガのマユも利用する。巣材の取り方も個性的だ。
ヤマガラは〈サンタクロース〉に変身するほどのよくばり鳥,カワガラスは巣
材を〈お洗濯〉する几帳面派である。
 ページを繰る毎に,それぞれの鳥たちの巣作りからヒナの育ちまで連続し
て見られる構成が分かりやすい。親鳥の子育ての様子など,ふだんなかな
か目にできない情景が細かくユーモラスに描かれている。写真ではなかな
かとらえきれない場面が多い。さすが長年の観察のたまものである。   
                            2005年5月 刊 1,400円 


                 
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