―新刊書評―      8月
 
  『さかなのじかん』 ともながたろ絵 ながのひろみ・まつざわせいじ文
                                    アリス館
ちよっと風変わりな絵本である。かなりデフォルメされた絵に,小さな文字で
短い文が添えられている。最初に夜と昼の海の中が登場する。その文がま
たもしろい。そして,意外と知らなかった魚の世界を知ることができる。
昼に
なると体の色や模様がかわる魚もいるとはまず驚きである。「魚にも時間割
がある」とは,なるほど。潮の大小,明るさ,水温,敵の動きなどが〈時間割決定〉
の条件となるらしい。季節毎の魚の動きがわかる。
 「わがはいは魚であ〜る」で,まずは魚学の基本を語る。「魚人生はた
まごではじまる」で産卵と子育ての様子が出る。子どもの姿で産む魚もい
るとは。「にてない一座〈親子波間の対面〉」では,魚の親捜し子捜しが楽
しめる。拡大して子どもたちに見せればクイズにもなりそう。次は「オスとメ
ス どっちがきれい」。う〜ん,魚もなかなかおしゃれだ。最後は「うおナビ旅
行社 うお旅ガイド」。いわゆる魚たちの回遊の様子がイラスト風に描かれ
ている。「死ぬまで泳ぐというハードな旅」(クロマグロ)から「川をくだって
〈海体験〉」(アユ),「日本の川にロングスティ」(ウナギ)と魚の旅が描かれる。
ユーモアたっぷりの語り口調にすっかりのせられる。波の音を聞きながら
海辺の木陰でこの本を眺めていると最高の気分かもしれない。なぜか絵本
なのに本が小さい。もう一回り大きな本で文字も大きければ低学年の子ども
でも十分に楽しめるのに。
                    2005年4月 刊 1,400円
 
『くも』     
 写真家今森光彦さんの「やぁ!会えたね」シリーズの一冊である。今森光彦
さんは身近な生き物に焦点を当てリアルな写真を撮り続けてこられると同時
にすばらしいエッセイストでもある。この「やぁ!出会えたね」シリーズは,そうし
た今森さんの写真とエッセイを組み合わせた楽しい読み物になっている。
 今回の『くも』では,今は少し数が減ってきたコガネグモが登場する。家の近
くの細い裏道で見かけたコガネグモを写真で追いながらの〈物語〉である。ま
ず最初に出てくる見事なコガネグモの網の写真にしばし見とれる。さすがプロ
の写真だ。
「からたちの垣根にいたコガネグモを、見ていたときです。/ 目の前で、アゲ
ハチ ョウが網にかかりました。/ チョウは、ひっしにはねをはばたかせますが、
/ 弾 力ある網は、大きくゆれてもやぶれません。/ …   …    … 。」
緊張した描写が続く。次の日に行くとコガネグモは破れた網の修復をしてる。
「お尻をふりながら、からだを規則正しく回転させている姿は、/ 鼻歌を歌って、
 踊っているようにも見えました。」
と,やっと獲物をしとめたクモの満足感と重ねて今森さんの気持ちが綴られてい
る。
写真では,クモの足や網の拡大写真,脱皮の連続写真,産卵の写真など迫力満
点である。                    2005年4月刊  1,400円

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