―新刊書評―      9月
  『コマの力学』―回転運動と慣性―    板倉聖宣・湯沢光男著 仮説社

 この本は,1996年に行われたサイエンスシアター「力と運動」の第4巻である。
『アーチの力学』(2004,8),『吹き矢の力学』(2005,1),『衝突の力学』(2005,6)に続く。
 第1幕「回転力=トルクと重心」の話から始まる。「実用的な運動はたいてい回
転運動」ととらえ,回転と力の関係,トルクの概念を実験を交えながら解説する。
第2幕は楽しいコマの話。なんといろんなコマがあるものだ。「バネもない,心棒
もないコマ」もある。どんなコマでしょうか。この幕の終わりに「日本人は世界一の
コマ好き?」というお話がある。江戸時代から庶民に親しまれてきたコマの歴史
を垣間見ることが出来る。著者ならではの記述である。
 第3幕は「コマを作る」である。コマと言えばドングリゴマがよく取り扱われる。
しかし,ドングリゴマはよくまわるコマなのだろうか。実験を交えながら〈よくまわる
コマ〉の条件をさぐっていく。コマと言えば丸いものという印象があるが,必ずしも円
形になる必要はない。最後にバランスの問題を取り上げている。第4幕は「コマの
慣性」で,まず〈はずみ車〉の役割を説く。〈遠心力〉も〈慣性の一つ〉とみればすっき
りわかる。「自転車はなぜ倒れないか」を模型のオートバイで実験しながら分かり
やすく説いている。
 最後に,このシリーズの基本構想についてまとめられている。科学教育,科学あそ
び等に携わる人にはぜひ読んでほしい一文である。ここで,著者は
「〈運動量の変化〉=〈力〉×〈時間〉=〈力積〉」
の概念を強調する。〈動力学〉への新たな橋渡しとしてこの本を読まれることをお薦
めしたい。                           2005年8月刊 2,000円


『大宇宙101の謎』       山岡均著  河出書房新社 
  
 今になって「新惑星が発見された」とか,「ブラックホールから超高速のガスが吹き
出している」とか,宇宙に関する話題はこと欠かない。それだけ〈天文学の世界〉では
新しい発見が次々と起こり新語も生まれている。おかげで,天文現象にふりまわされ
ている観もしないではない。
 子どもたちには,こういうトピックスよりも基本的な宇宙のしくみについてじっくり空想
する時間が必要である。また,この宇宙を解き明かしてきた人類の歩みを一つ一つを
体験してみることも大切だ。
 そういうことを念頭にしながら,だがしかし,宇宙における最先端の観測事実について
易しくわかる手段があれば,それも一つの知的興味維持につながる。そういう意味で
この本を取り上げてみた。
 本の名前からして宇宙の謎が101項目にわたって解説されている。写真やイラスト
も多く取り入れられていて,これぐらいなら気軽に読める。後部には,「暦はいつごろから
作られたか」「万年カレンダーの仕組みは」とかの興味ある話もある。また,望遠鏡の
選び方,公開天文台のリスト,インターネットのサイト紹介などもあり,研究の足がかりに
なる情報源もある。
 最後に「いま,天文学がおもしろい!」と著者は書く。ここで著者は「世界観は更新さ
れていくのです」と語りかけている。世界観の更新が世界平和の石杖になってもらい
たい。                                  2005年7月刊 838円

                    
                       新刊案内9月