―新刊書評―    2005年 10月

   『海辺の石ころ図鑑』          渡辺一夫著  ポプラ社
 同じ著者の『川原の石ころ図鑑』が以前に出ている。日本国中の川原の石こ
ろを並べた本で,親しみやすい石ころ図鑑である。これと,同じスタイルで,今度は
日本国中の海岸に著者は出向いた。
 図鑑とはいえ,ぺらぺらと頁をめくると美しい石ころが次々と眺められる。海岸
の石ころもいろいろな〈顔〉があるものだ。北海道から沖縄まで94の海岸の石
ころを紹介している。順々に眺めているとまるで日本列島を旅している気分に
なる。まだ見知らぬ土地に夢をはせ石を眺めるのも楽しいものだ。
 北海道湧別には黒曜石の石ころが落ちているという。東北地方には〈碁石海
岸〉〈大理石海岸〉などがある。茨城・長浜海岸には貝化石の入った泥岩,静岡
の菖蒲沢海岸では,水晶の入った石英の脈が石ころになって転がっている。新潟
県・青海海岸にはエメラルドグリーンの蛇紋岩がある。福井県・塩浜での赤いチ
ャート,三重県二見浦海岸でグリーンの結晶片岩がきれい。島根の桂島海岸で
はメノウが転がっている。桜島では火山の石,沖縄にはサンゴの殻,〈星砂〉もあ
る。日本列島石ころもさまざまだ。
 各地区毎に海岸の砂の紹介もあるが,砂の中身である鉱物の紹介がない。こ
れがあるとさらに興味がますのだが,ちょっと残念。
 子ども向きの本ではないが,岩石名も簡潔に書かれ,言葉もやさしい。ルビつき
で解説されているので子どもたちも親しく眺められるのではないか。
   2005年6月刊 1,500円

『アシナガバチ観察事典』   小田英智・小川宏著  偕成社   
 この本では,アシナガバチの巣作りの過程が特にくわしく観察されている。以前に,
同じ著者による『カリバチ観察事典』が出版されていて,アシナガバチの生活や巣
作りについてもかなりの頁で解説されていた。
 ハチには近づかない方が無難なので,巣作りの過程などじっくり見ることあまりな
い。しかし,小さなアシナガバチがあの丈夫で巧妙な巣をどのようにして作っていく
のか興味がわく。そのようなハチの巣作りについて知りたい人には,この本はうっ
てつけである。クローズアップ写真も交え,順を追って記録風に書かれている。
 著者の主張でおもしろいのは「アシナガバチは,少なくとも人間よりもはるか昔か
ら,紙とおなじような材料で巣をつくっていました。ひょっとすると,アシナガバチのパ
ルプ集めや巣づくりをみて、紙づくりのヒントを得た人がいたかもしれません」という
見方である。人間の和紙作りのヒントになったとはおもしろい。
 そういえばアシナガバチの巣をよく見ると,細かな繊維がよく見える。アシナガバチ
は木材や樹木の繊維をかじりとって〈パルプ〉にしているのだという。そこに,自らの
唾液で練り合わせ丈夫な壁を作っていく。
 さて,母バチの献身的な巣作りの後,働きバチが誕生し巣は一気に大きくなる。や
がて,オスバチと娘バチが誕生し来年に向けての交尾が始まる。交尾した娘バチが
落ち葉の下などで越冬し来年に備えるという。ハチを観察するポイントが読み取れ
る。
                                2005年7月刊 2,400円 

                    
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