―新刊書評―    2005年 11月

  『素数ゼミの謎』    吉村仁著    文藝春秋社

 「〈素数ゼミ〉なんて聞いたことがないな」
 「これは,本当にセミの話なの?」
 題名を見る限り数学の堅苦しい話と思われそうだが,なんとおもしろいセミ
の話である。ふつうセミは,6~7年土の中で幼虫時代を過ごし,やがて樹上に
這い出て殻をぬぎ成虫になる。そんなセミの中に,13年とか17年も土の中で
幼虫時代を過ごして一度に樹上に這い出すセミがいるのだという。しかも,あ
る地域に限定して一度に成虫になるため,蝉時雨ならぬ,セミ〈騒音〉に悩まさ
れるのだという。アメリカの話である。
 そのセミの名が〈素数ゼミ〉。この本は,この不可解なセミを研究した日本人
著者による話である。
 このセミには謎がつきまとう。そもそも,10数年もの長きにわたって地中で
の幼虫期間が長くなったのはなぜか,しかも,一カ所に集中して棲息するのは
なぜか,さらにおもしろいことに,13年と17年目に一斉に地表に出てくる謎は何
か。いずれも不可思議な話である。その謎に著者は挑戦した。
 著者は13年とか17年とかの〈素数〉に注目して,その謎解きにかかる。
「なるほど。長い長い進化の過程が積み重なっていくと,13と17に淘汰されて
いくのか」と感心させられる。
 この不思議なからくりを知りたい人は,この本をどうぞ。児童書ではないが,中
学生以上なら興味深く読めると思う。セミの話であると同時に,素数の性質を
ひもとく数学の話でもある。    2005年7月刊 1,429円


『虹をみつけた』(たくさんのふしぎ)   岡戸敏幸著  福音館書店  
 
 〈虹〉を日本の文化史の中で追い求めた著作である。〈虹〉と日本人との関わ
りが読み取れるユニークな本である。
 まず初めに中国での〈虹〉の話が登場する。中国では古くから〈虹〉が人々の
中に意識されていた。副虹も含めて「虹霓」(コウゲイ)と呼ばれ,雌雄の〈龍〉に見
立てられていた。「虹」という文字が「虫」編になっていることからも,虹は〈生き
物〉だったことが伺える。西洋では,2000年も前のギリシャ神話や後の聖書にも
登場するという。
虹は〈ノアの大洪水を二度と起こさないための神と人間との約束〉だという。お
もしろいところに〈虹〉が登場している。
 さて,日本ではどうか。日本の文化史ではいつ頃から〈虹〉が登場してくるのだ
ろうか。〈虹〉は日本の美しい風景にもマッチして,早くから日本人の心に根付い
ていたはずである。
 著者の調査によると,日本の記録上で初めて見られるのは700年前の鎌倉時
代の絵巻とのこと。ここには,「神さまととむすびつ特別な光」として虹が登場する。
日本人が,虹をありのまま自然の風景の中に描き出したのは江戸時代中期から
である。このことは,自然と調和して生活を表現する気風がこの頃から根付いた
といえる。なかなか興味深い話である。後半にガラスや貝化石の虹も紹介され
ている。
 ただ,この著者は「虹は七色」と決めているが,実際には虹は七色には感じられ
ない。             
                              2005年11月刊 700円 
                    

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