書評  2005年12月

 『アリ? ずかん』    山口進著    アリス館
アリの多様な習性や生活について,イラストを交えた話で楽しませてくれる。
各項目毎に〈問い〉をしかけ〈要点〉が書き出されている。まず,書かれている
内容の見当がつけられる。なかなか興味をそそる書き方である。
 最初はアリの巣作りから。羽の生えているアリたちの飛行の始まりである。
アリは空中で交尾するという。アリの〈おつながり〉は見たことがないな。交尾
すると,精子は女王ありの受精のうで一時保管されるという。即,卵子とつなが
らない。これで,働きアリ,メスアリ,オスアリと生み分けるのだという。なかなか
のシステムだ。
 次は,受精を終えたメスあり(女王アリ)の巣作りの話である。メスアリは快適
な巣場所を見つけるといよいよ,一人で子作りに専念する。意外や「最初の数
年間は働きアリばかり生む」とある。「メスアリとオスアリが生まれてくるのはだ
いたい6年後」とある。ということは,あのアリの大家族が生まれるのに6年以上
かかる? それまで働きアリの献身的な働きに支えられている。やがて女王ア
リが体内の調整で「卵子に精子を入れずに生むとオスアリが生まれる」とある。
無精子で命が生まれる?
 その後,「働きアリのくらし」,「アリのさまざまな生き方」と続く。小さなアリの世
界でも略奪に命をかける種もいれば,ひたすら共生の道を歩むアリもいる。〈ア
リの生きざま〉も様々だ。
 この小冊子で,小さなアリの世界に繰り広げられている意外なドラマを垣間見
ることが出来る。
           
                                    
2005年7月刊 2,000円
 

 『花と昆虫観察事典』(自然の観察事典)  小田英智著  偕成社 
 ふつうは,動物である昆虫が自分の都合に合わせてより適切な花を選んで蜜
や花粉を採取していると思われている。しかし,著者は〈花の方が少ないコストで
最大の効果を得ようとさまざまな工夫をこらしている〉のだという。この本は,花に
主役をおいて〈花と虫の関係〉を追っているユニークな本である。
 花びら(花弁)にはたいてい中心に向けたきれいな模様がある。これはたんな
る模様と思いきや,昆虫たちを密線へ導く〈道しるべ〉だという。虫の目(紫外線)
で花弁の模様を見ると密線へつながる道に見えるらしい。これも花の工夫の一
つだという。 
 また,花の中には〈動くおしべ〉を持つ花もあり,それらは,虫が止まるとその震動
でより効率的におしべを虫の体にくっつけるのだという。アザミは虫が花にとまる
と,その震動でより多くの花粉を出す。まめ科の植物はおしべの先を虫の体にこす
りつける。オニユリの長いおしべはうまくアゲハチョウの体に花粉をこすりつける
長さになっている。花もなかなかシステマティックだ。
 昆虫の多くは蜜を求めて花に集まるが,中には花粉を集めている昆虫もいる。花
粉は昆虫たちにとって豊富な栄養源になる。ミツバチは〈密と花粉〉を集める代表
格だ。
 この本からは,花と虫たちの長い長い進化の足あとが想像される。「自然はさま
ざまな命が結び合った複雑なネットワークだ」と著者は結ぶ。
 この本はことさら写真が鮮明である。最新のデジタル技術のたまものか。写真家
の北添伸夫さんの役割も大きい。     
     2005年9月刊  2,400円  

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