―新刊書評―      2006年1月
 
 
『葉っぱの不思議な力』  鷲谷いずみ文・埴沙萌写真 山と渓谷社

「わずかな光を受け止めたかと思うと,強すぎる光をはよける/虫に食べら
れたかと  思えば,やりかえす/水が足りなければやりくりし,あまれば捨てる
/強くてしなやか,  ときにはしたたか/不思議な力をもつ葉っぱが今日も緑
の地球を支えています!」
 帯にある言葉である。植物をあくまでも動的な〈生き物〉としてとらえる鷲谷
いずみさんの文章がおもしろい。的確な証拠となる埴さんの美しい写真が生
きている。
 まずは〈1.植物の形とつくり〉である。しょせん,葉っぱは〈光を求め有機物を
作る工場〉である。〈工場〉がうまく機能するように葉っぱはさまざま姿にに
〈順化〉している。水玉をいっぱい付けたワレモコウの美しい写真。これは朝
露…と思いきや,「余分な水を排出している」葉っぱとのことである。これは意
外。
 〈2.植物の生存競争〉がまたおもしろい。植物は〈ただたんに太陽を求めて
成長しているだけ〉かというと,「そうではない」と著者は書く。美しい紅葉は
「樹木それぞれの損得勘定のちがい」と言う。葉を落とすにはそれなりの
〈役割〉をしてかららしい。また,虫たちに食べられないための〈戦略〉もなか
なか巧妙だ。棘や粘液,樹液が虫たちからの〈略奪〉防止に一役買っている。
ところが,それに負けじと虫たちも〈応戦〉する。なかには,ボディガードとして
アリを〈雇っている〉植物もある。こうして〈進化〉が起こっていく。
 〈3.葉っぱの観察〉では,ちよっとした葉っぱ観察の事例が書かれている。
                                2005年6月刊 1,600円
  
『葉っぱをまく虫』      海野和男著  新日本新聞社

〈葉っぱを巻く虫〉ってみんさんは見たことがあるだろうか。小さな葉っぱをく
るくる巻いて卵を産み付けるのはオトシブミである。オトシブミはほんの1cm
ほどの小さな甲虫で,成虫は赤と黒のなかなか鮮やかな色をしている。その
小さなオトシブミがどのようにして〈葉を巻く〉のか,著者は5年を費やして写真
に収めた。著者は廃園となったクリ園で,オトシブミが葉を巻く様子を細かく観
察する。オトシブミはどんな葉っぱでも巻くのではない。だいたいはクリやシラ
カバの葉っぱを巻いてそこに産卵する。オトシブミは一口かんだ味で,その葉
がクリかどうか判別するという。どうだろうか。巻いた葉っぱはそのまま幼虫
のすみ家であり食料となっていく。〈家まるごとレストラン〉とは,うまいこと考え
るものだ。
 さて,オトシブミはどのような経過で葉っぱを切って,巻いていくのだろうか。
著者は,執拗にカメラで追い続ける。まず,オトシブミはたんねんに葉っぱの主
脈に傷を付けてる。後は,鋭い切れ込みを入れ巧妙に葉っぱを巻き込んでい
く。あの小さな体でよくもまあ順序よく巻いていくものだと感心させられる。
 著者はオトシブミの観察を通していくつかの謎にも直面する。オトシブミは,
成虫の寿命は11カ月もあるのに活動するのはわずか1ヶ月半くらいだという。
オトシブミはどんなところで冬をこしているのだろうか。今まで,何度も落ち葉
をさがしても見つからなかったとのことである。読者の皆さんで見つけてみる
と大発見になる。
                         2005,10刊 1,400円 (西村寿雄)     
                     
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