―新刊書評―      2006年3月
         
『カブトムシはなぜ飛べる』
(ふしぎな自然のおり紙)七尾純著 国土社
  副題に「ふしぎな自然のおり紙」と書かれている。この本の主題は,むしろこちらに
ある。変わった視点で自然をとらえている点が評価できる。
 最初は,オトシブミの〈ゆりかごづくり〉が出る。これは,昆虫が意図的に葉っぱを巻い
ていくもので「うまく工夫するなー」といつも感心させられている。ザリガニやダンゴム
シの〈背中のジャバラ折り〉も同様である。
 次に,「ひまわりの開花」と来る。そういえば,ひまわりの花びらは,つぼみの時はうまく
折りたたまれている。いったいどうなっているのだろうと疑問がよぎる。
「なるほど,うまくできている。こんなにうまく花びらがおさまっていたのか」と,写真で再
認識させられる。続いて,チョウの羽化の話が出る。
 さて,カブトムシ。こちらは,飛翔するとき,あの薄い羽根を〈広げたり閉じたり〉しなけれ
ばならない。考えてみれば,これはなかなか巧妙な仕組みである。よくもまあうまく自然
界が作り上げたものだと改めて感心させられる。
 それを,うまく真似ている人間もすばらしい。「折り紙」の元祖は,この自然界だったのか。
包み紙や風呂敷の包装の仕方,人工物の各所で見られる〈ジャバラ〉の構造,アイデアは
みんな自然界のしくみを真似ているかも。地図を折るときの〈ミウラおり〉が,宇宙を飛ぶ
人工衛星にも応用されている。
 構成がおもしろいのでこの本を取り上げたが,値段が高すぎるのが難点。                                                                  2006年1月刊 2,800円

『ヤマネの森を見あげてごらん』湊 秋作著 関口シュン絵 佼成出版社
 著者はヤマネ研究の第一人者である。まだ,身近な哺乳動物の研究がほとんど行わ
れていないときから,著者はヤマネ研究に打ち込んできた。山の学校の小学校に勤め
るかたわら,子どもたちと一緒にヤマネ研究を続けた点が評価されている。そして,今は
清里にある〈やまねミュージアム〉の館長さんである。この本は,そのような著者の半生
を,マンガで描いている。読み物を主体とした「科学読み物」ではないが,子どもたちが手
軽に手に取る自然の本として推奨できる本である。
 この本は,〈やまねミュージアム〉に来館した子どもたちを相手に,館内の案内から始まる。
初めは,ヤマネの習性が解説されていく。「ヤマネ写真館」というコーナーには,ヤマネに
ついて基本的な知識がまとめられている。
 続いて,著者のヤマネ研究のきっかけの話から,和歌山の小学校の話へと続く。田舎の
学校で,子どもたちといっしょに調査する著者の楽しそうな雰囲気がよく伝わってくる。こ
こで著者は子どもたちから教えられ,初めて,ヤマネの交尾場面を観察する。この場面に
は,「日本ではじめて、ヤマネの交尾が観察された瞬間です。」とある。
 続いて,清里のみなさんとの交流の様子が語られていく。清里での本格的なヤマネ調査,
道路の上に渡す〈ヤマネブリッジ〉建設の試み,世界の「アニマルパスウェイ」の普及に取り
組む著者の意気込みが語られている。冬眠から起きあがってくるヤマネの姿を追って終
わっている。
 あまり知られていないヤマネについて,その場にいるような感覚で読める。
                                  2005,11刊 1,400円(西村寿雄) 
                 新刊案内06-03