―新刊書評―      2006年4月
 『TSUNAMIをこえて』   藤谷健文  ポプラ社
2005年12月に起きたインドネシア沖地震による津波被害は,われわれ日本人にも
想像を絶する惨状であった。この本は,その惨状から復興への過程を豊富な写真で
紹介している。目を覆いたくなるような写真が続く。美しかった街も一瞬のうちに地獄
に化した。被害の重さがひしひしと伝わってくる。その惨状の中で人々は少しずつ明
日への希望を持ち始めた。瓦礫の上で屈託なく遊ぶ子どもの笑顔にほっとさせらる。
そしてなによりも〈29年も続いた政府側とゲリラ側との戦闘が中止されることになった〉
という記事に明るい兆しが灯る。
 今回の津波被害が異常に拡大した原因は,現地の人々が〈津波〉を知らなかったこ
とにある。支援にやってきた外国人から初めて「TSUNAMI」という言葉を現地の人は
知った。そこで,未来の子どもたちに津波の恐ろしさを伝えていく活動が始まった。
現地の報道写真家のグループが,被害直後の悲惨な写真を持ち寄った。つらい思いを
乗り越えてこうした写真を提供されたのだろう。日本文にはジャカルタやアチェなどで
紛争取材をしてきた藤谷健さんが書いた。最後の解説は,自然災害から社会を守る研
究に従事していた濱田正則さんが書いている。
 日本には,戦前の小学国語読本に津波被害の恐ろしさを伝える読み物があった。
「稲むらの火」である。戦後の教科書からはなくなっているが,こうした災害の教訓はく
り返し国民に伝えていく必要がある。その意味で,この本は少なくとも各学校や各地の
図書館には備えて欲しい。海岸地域では各家庭の必需品にしてもいい。
    
                                     2006年2月刊 1,300円


『数の大常識』  秋山仁監修  ポプラ社
 「博士の愛した数式」という映画が上映されている。この映画では,数の不思議さと
面白さを堪能させてくれる。『数の大常識』というこの本は,その映画ほどでもないが,
数にまつわるちょっとした豆知識をコンパクトにまとめている。本来は,授業などでもっ
と感動的に学ぶとよい内容も多い。しかし,感動的な授業があまり期待できない現状
の中,子どもたちに数の不思議さに少しでもふれてもらえるのなら,この本もいいので
はないか。
 「その1 数のひみつ」では,〈数字の始まり〉から,〈十進法のおこり〉,〈倍数と約数の
話〉などがある。そのなかで,比較的おもしろいのは〈自然の世界でも見られるふしぎ
な数列〉と〈素数とセミのふしぎな関係〉だ。ケヤキの木の枝分かれが数学的とは興
味深い。
「その2 単位のひみつ」では,連続量から生まれた単位の話がもりこまれている。
「体から生まれた長さの単位」「穀物から生まれた重さの単位」「メートル法ってなん
だろう?」など興味深い話もある。
「その3 計算のひみつ」では,数の不思議さにまつわる話が続いて出てくる。「友達
の誕生日をあててみよう」というのは,よく数当てに使う二進法カードである。「数のピ
ラミッドをつくろう」では,対称的な数字のピラミットが美しい。その他,〈小町算〉〈植木
算〉〈つるかめ算〉や〈一筆書きのなぞ〉にもせまる。「マンホールのふたは,なぜ丸い」
と,おもしろいテーマがつづく。興味のあるところから,気軽に読んでいけばいい。          
       2006,2刊  880円                                                

                    新刊案内06,04