―わたし好の新刊書評―      2006年6月
 
『地震たんけん』         松岡達英作絵   ポプラ社
著者の絵本作家,松岡達英さんは2004年10月に起きた新潟県中越地
震で被災された。この時「地震も地球の大きないとなみのひとつだ」とい
うことを痛感したとのこと,そこがこの絵本作りの動機になっている。この
本は,地震の起こる背景や原因を得意の絵とイラストで綴っている。現代
地球科学の全貌を松岡さんのイラストで楽しみながら見ることができる。
 「岩石がこわれたときのショックが,波となって,地下をつたわっていき,
  その波が地面にとどいたきにゆれを感じる,これが地震だ。」
として,見開きページで地球誕生からの歴史が描かれていく。大陸移動の
様子も示しながら,地球の内部構造,プレートの話へと続く。最近,明らかに
されたプルームの話も交えてマントル対流の話に続く。地震は海溝部に
多く起きる。日本は多くのプレートのぶつかり合う場所であることが示さ
れる。続いて,内陸型地震の話もある。津波の話,火山災害の話へ続く。
 もぐら博士が子どもの質問に答えていくという手法で描き綴られている
ので,子どもたちも親しみやすく読めるのではないか。
 最後にある「読者のみなさんへ」の項で,著者はこうしめくくっている。
「気の遠くなるような長い時間をかけてはぐくまれてきた地球の自然環境
は,ここ数百年の間に,わたしたち人間が勝手に作りかえてしまいました。
それにより,地震の被害が大きくなってしまったという面もあるのです」
 地震の災害を減らし地震とうまくつきあっていくことが意図された本であ
る。                         2006,3刊 1,300円
   

 『ブナの森は宝の山』  
            平野伸明文 野沢耕治写真   福音館書店
ブナの森の生き物写真集である。秋田の森吉のブナ林に数年通い続け
て撮りためた写真集という。著者達は,NHKの「生きもの地球紀行」などを
手がけたベテラン写真家である。100頁以上にも及ぶ写真集は,まさに「生
き物の宝庫」である。
 ページは冬から始まる。雪に覆われたブナの林は,湿潤な気候を生み出
す元となる。凜と静まりかえった白銀の世界が続く。一見,静まりかえった
森の中でも動物たちは活発に動いている。幹にいくつもの穴を開けるクマ
ゲラ,ヤマドリを襲ったというテン,ゆっくりと反芻しているカモシカ等々,動物
たちは寒さ知らず。やがて,陽差しが暖かくなる頃,エダシャク,カワゲラ,クモ
たちが動き始める。もうすぐ春だ。
 青空をバックにした芽吹きはまた格別美しい。雪解け水が森にあふれて
いる。ミズバショウやリュウキンカなども顔を出す。やがて,〈根開き〉が起き
る頃,スプリングエフェメラルたちの開花が始まる。カタクリ,キクザキイチゲ,
イワウチワなど,可憐な花たちが林床を彩る。雪解け水のたまりには,はや
ばやとヒキガエルやサンショウウオの産卵が始まる。ホオノキ,トチノキ,タム
シバなどの木々の花が咲き誇る時期が過ぎると,もう初夏が訪れる。
 こんな調子で,ブナの森1年の四季折々の生き物の姿がが紹介されていく。
ブナの森はまさに命を育む故郷である。「森は新しい命をはぐくみながら,
原始の森のかわらぬ姿を保ち続けてゆく」と綴られている。すばらしい地
球の姿を堪能させてくれる一冊である。               
                                 2006,4 2,400


               
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