―新刊書評―      2006年8月


『酸素の物語』 化学の物語1

        カレン・フィッツジェラルド著・原田佐和子訳 大月書店
 楽しく読める〈酸素の発見物語〉である。一般に原子分子の話は,目に見
えない世界を語るだけに初めて学ぶ者にとってはなかなか理解しにくい。
しかし,〈酸素〉は,私たちの生活に一番密着した原子である。この本は,〈燃
焼〉という現象から〈酸素の存在〉をつきつめていった科学者の長い長い発
見物語である。
 第1章では,はるか昔の祖先たちには,〈火は「うなりをあげる怪物」〉に見
えた当時の人類と火のつながりを説く。第2章では,〈空気の存在〉に気づい
たギリシャの科学者の話, 8世紀に「空気は陰と陽という2つの成分からでき
ている」と説いた中国の科学者の話が入る。それから1000年後ヨーロッパ
でも〈酸素〉の存在に気づきだした。そのきっかけはかのダ・ヴィンチだという。
しかも彼は生き物も〈空気〉を取り込んで呼吸をしていることをつきとめていた。
第3章,第4章で,いよいよ想像を駆使して酸素原子の鍵をひもといていく近代
科学者の話が語られていく。これがまたわくわくして読める。第5章では呼吸
や光合成,オゾンの話まで説いて終わっている。
 文中に「私たちが毎日見ている火は,酸素がほかの原子と結合した喜びの
表現なのだ」と書かれている。この本を読み終えると,目に見えぬ原子たちが
親しみのある〈生き物〉として浮かび上がってくるから不思議だ。
 ずっと読み物が続くページもある。ゆっくりと自分のペースでイメージを広げ
ながら読むといい。〈酸素原子〉たちの存在が実体として見えてくる。中学生
からのお薦め本である。                      2006,6刊 1,800円

『おおきくなると』(虫の親子)
                海野和男写真文デザイン 新日本出版社
 著者は,〈虫と親しむ本〉をたくさん出している昆虫写真家である。この本も,子
どもと一緒に虫の親子をさぐりながら虫の世界を楽しむことができる。この本の
カバーにこう書かれている。
 「ムシの親子は…あらびっくり、ぜんぜんちがう姿? おおきくなると幼体から
成体へ変態する虫の特徴が、クイズなどで楽しくわかります。親子をあてて
みたくなる写真絵本です。」
 変態をする昆虫の話は,ふだん虫たちとなれ親しんでいないとなかなか幼体と
成体と結びつかない。そこをうまくクイズ形式にして取り上げている。
 「木や草には あおむしや けむしが いっぱい なにに なるのかな」
などと問いかけて,ページをめくるとそれぞれの成虫の姿が紹介されるという仕
組みである。茶色の毛虫じゃらがなんと真っ白なチョウに,たくましい棒のような
幼虫は,小さなガにと虫たちの変身術もなかなか多様だ。最後には
「このこ だれのこ わかるかな」
として,左ページに幼虫や幼体,卵が載せられていて,右ページの成体と照合でき
るようになっている。「あっ!わかった」「これは○○の幼虫だ」という子どもの歓
声が聞こえそうだ。
                          1,300円 2006,6刊 (西村寿雄)
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