新刊書評   2006年9月

  『電子レンジと電磁波』板倉聖宣・松田勤著 
                サイエンスシアターシリーズ 仮説社
好評が続くサイエンスシアター・シリーズの一冊。電子レンジは
身近な調理器具でありながら原理はわかりにくい。この本は,電子レ
ンジを使って〈とんでもない実験〉をたくさんしながら, 電子レンジの原
理がわかっていく本である。
 例によって,いくつもの〈問題〉と楽しい討論を中心に話が展開され
ていく。読者も,予想を立てながら,或いは本と一緒に実験をしながら
読み進めることができる。
 サイエンスシアターにちなんで3幕の構成となっている。第1幕は
「電子レンジとマイクロ波」。「食用油は電子レンジで熱くなるか」,「ア
ルミホイルで包んだ水入りコップを電子レンジに入れると水は熱くな
るか」,さあどうだろう。電子レンジでモノが熱くなる謎は,意外と水分
子の形にひそんでいる。第2幕は「電子レンジと自由電子」。「電子レ
ンジの中にスチールウールを入れると?」「電子レンジの中に蛍光灯
を入れると?」とあやしげな実験で〈自由電子〉の存在が見えてくる。
第3幕は「光線とマイクロ波」。電子レンジはなんと〈マイクロ波〉と呼
ばれる〈電波〉を使っているとか。それなら「電子レンジの中にテレビ
で使うようなミニアンテナを入れると?」,はたしてアンテナに電気が起
きるだろうか? 電子レンジの電磁波がアンテナの自由電子を動かし
ていれば電気が起きるはず,さて,どうだろう。
 最後に,おはなし「ファラデーの発見物語」がある。〈光は電磁波の
一種だ〉と電波の性質を手探りで見つけていったファラデーさんの楽
しい発見物語である。 
                           2006,8刊  2,000円

                           
 『野生動物と共存できるか』高槻成紀著  岩波書店
                 (保全生態学入門)岩波ジュニア新書

 この本は〈ジュニア新書〉とはいうものの,子どもたちがすっと手にす
る体裁の本でないかもしれない。しかし,今の人間にとってかけがえ
のない自然観について切々と説いている。わたしたち大人が手ほど
きをしてでも,ぜひ生徒たちに伝えたい本である。
 最終頁に著者は〈野生動物の価値〉について問いかけている。あ
たりまえのことでありながら,人間中心の価値観に傾きがちな自然観
について著者は
「いま地球上にいる生命は、ほとんどのものは人間よりも前から地球
上におり、さまざまなできごとをくぐりぬけ、また気の遠くなるほど長い
時間をかけて変化して現在の地球にいて、おたがいにつながりを保
ちながら生きているのです。そのこと自体がかけがえのない価値を
もっているのです。人間の役に立とうが立つまいが、価値があるの
です」と語りかけている。このことは、また、地球上のすべての国の
人々や資源も, 先進国と呼ばれている国の人たちの価値に関係なく
存在していることを意識づけている。
 内容的には,〈保全生態学〉という新しい学問分野から, 今の野生動
物の実態と研究過程が紹介されている。「いま野生動物にこんな問
題が」「絶滅はなぜおきるのだろう」「保全生態学が野生動物をまも
る」「野生動物問題の解決に向けて」「野生動物をどう考えればよい
か」など,シカやサル,クマ問題とからめてたくさん提起されている。ぜ
ひ,生徒さんたちに読んでほしい一冊である。   
                         2006,6 780円(西村寿雄)


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