新刊書評  2006年11月

  
               
 『さむらいの刀はどうして折れない?』 数の世界を楽しむ
          
 
       アンナ・チェラゾーリ著 泉典子訳世界文化社  
なんでもない日常会話につきあっているうちにひょいと数学の話になる。気楽に読め
る〈数学の本〉である。登場するのはフィーロという9歳の男の子と,かつては高校の数
学の教師をしていたという「おじいちゃん」とフィーロの学校の先生。
 タイトルの話『さむらいの刀はどうして折れない?』も含めて18の話から構成されてい
る。それぞれ短編なのでどこからでも読める。
 最初のchapter 1は「時計は丸いカレンダー」である。「時計がカレンダーになっていた?」
「そんなこともあったの?」といぶかりながら読んでいく。かつて, バビロニアの人が1年
を360日とまちがえたことがきっかけで時計の一回りが360目盛りになり, そこから円の
一周は360度に定着したという。本当なのだろうか。これで「直角がなぜ90度か」の謎も
解ける。
 chapter 3で本の題名「さむらいの刀はどうして折れない?」が出てくる。〈侍の刀と数
学と何が関係するの?〉と不思議がって読んでいくと〈指数〉の話にたどり着く。刀は何
度も鋼を折り曲げて焼きを入れるから強度を保つという。これが〈指数〉の理屈にかなっ
ている。そのほか, トカルチョの話から累乗の話, バーコードの話から暗号の話, 階乗の
話, 確率の話へと続く。後半は偏差値の話など統計の話になる。その他,「三段論法と集
合」「肯定式と対偶式」など論理的思考の話題もある。気の向くままに一つ一つ読んでい
くうちに数学的な見方がイメージできてくるかも。            
                                  2006,8刊  1,400円


                               
 『いたずらカメムシはゆかいな友だち』
                               谷本雄治文   くもん出版
カメムシと聞いたら, 一歩手を引く子どもたちも多いのではないだろうか。たいていの
カメムシは, ちよっとさわっただけでくさい臭いを出したり,なかには刺したりすのもいて
人間には敬遠される。また, イネや果樹などにもくっつき果物などにさし跡を残すくので
農家の人から〈害虫〉扱いにされたりする。
 しかし, カメムシには宝石のように光り輝く種や赤い縞々模様の種など, とても美しい
種もいる。また,あまり知られていないカメムシの隠れた習性もある。この本はそんなカ
メムシの魅力にとりつかれた著者が, 自らの観察にもとづいて楽しいカメムシ物語を綴
っている。
 著者はまず,「カメムシはなぜくさいのか」の研究に挑む。世の中には, ニンニクや納豆,
スカンク, 人間のおならなど,くさいもの類は多いが, カメムシは体の小さな穴からそのく
さいにおいの液を出している。カメムシはその〈くさい臭い=集合フェロモン〉をたよりに
仲間を呼び寄せている。農家では,カメムシの人工的〈集合フェロモン〉を使ってカメムシ
を寄せ集め一網打尽にしているのだという。かといえば, 他の害虫退治に貢献している
カメムシもいるという。
 カメムシはすばらしい習性もある。カメムシはあの小さな口先で固い皮をまとった果樹
から樹液を吸う。かくれた〈武器〉を持っているからだ。カメムシも鳴くのだという。そうい
えばカメムシはセミと同じ仲間なのだ。カメムシの子育てもなかなかのもの。カメムシに
まつわる興味ある話題がつきない。                    
                             2006,9刊  1,300円(西村寿雄)


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