新刊書評 2006年12月
   
 『どんぐりの穴のひみつ』(わたしの研究) 
                       高柳芳恵文 偕成社
『葉の裏で冬を生きぬくチョウ』の著者,高柳芳恵さんが, 今度は〈ど
んぐりの穴〉の謎ときにに挑戦した。ある日,高柳さんがどんぐりコマを
回していると,ドングリの中からひょっこりと顔を出した幼虫がいた。き
っと読者のみなさんもそんな経験を持たれているのではないだろうか。
 「いったいこれはなんという虫のしわざなんだろう」
 「なになに,シギゾウムシの幼虫がどんぐりにもぐりこんで穴を開ける
のか」
と, そこぐらいまでは本などを読んで調べられる。だいたいはそこで満
足してしまうのではないだろうか。
 しかし, 著者の高柳さんはそこから出発して〈どんぐり穴〉の謎解きに
挑戦した。
 ある晩どんぐりを袋に入れて家に置いていると,そこから「カリカリ」
「カリカリ」と奇妙な音がしていることに高柳さんは気づく。あの小さな
幼虫が堅いどんぐりをけんめいに削っている音だ。高柳さんは急に興
味をそそられた。
 そのうち高柳さんは, どんぐりに開けられた穴はたいていは大小いく
つかあることに気づく。「これらは幼虫がどうした時の穴だろうか,」高
柳さんの疑問がまた一つ増える。高柳さんはまた謎にぶつかった。
「堅い皮のあるどんぐりにいったいどのようにして幼虫たちが潜り込
んだのだろうか」である。読者のみなさんはどのように思われるだろ
うか。疑問はますばかり。いよいよ高柳さんのどんぐり虫研究が始ま
った。 つぎつぎとシギゾウムシの卵から幼虫の行動が明らかにされ
ていく。読者も高柳さんと一緒になって〈どんぐり虫研究〉に挑戦して
みられてはいかが。                              
                              2006,9刊  1,200円
 
『カゲロウ観察事典』 (自然の観察事典)
                      小田英智構成・中瀬潤文写真偕成社
  カゲロウというとふつうは〈アリ地獄〉を作るウスバカゲロウを思い起
こす。
 しかし,本誌で取り上げているのは, ウスバカゲロウやクサカゲロウでは
なくて谷川などの川面であやしげに飛び交うカゲロウ目のカゲロウであ
る。こちらは原始的な昆虫で3億年も前からこの地球上にすんでいると
か。この本はそんな小さな昆虫の観察記録写真集である。
 カゲロウ目のカゲロウは体長1.5cmくらいで, 長い尾をもつ奇妙な昆虫
である。一見,トンボを小さくしたような体で羽根を一対持っている。原始
的な昆虫とはいえ,3億年も生きてたきたからにはそれだけの理由があ
る。どんなふうに生きているのか興味がそそられる。まずはじめに成虫
の拡大写真が出る。なんとも奇妙な顔つきだ。目である複眼は異様に
大きい。それに顔半分と口は平らな堅い殻で固められている。
「カゲロウの成虫の口は退化していて, 水は飲めるものの, 食物をとるこ
とはできません。」とある。「えっ! 口がないの?」「ではどうやって生きて
いるの?」と思わず叫んでしまう。「その結果カゲロウの成虫の寿命は,ふ
つうとても短く,たった数時間しか生きられない種類もいます。」とある。
「なんとまあ数時間の運命か」と驚かされる。
 成虫となったカゲロウがそんな短い間にどんな方法で子孫を残すのだ
ろうか。これにはまた驚くべき機能が備わっている。不思議な昆虫〈カゲ
ロウ〉の生態が美しい写真で紹介されていく。         
                             2006,10刊  2,400円

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