―わたし好の新刊書評―      2007年1月

『知床』    (たくさんのふしぎ)     増田泰文 福音館書店
 著者は十数年知床半島の付け根にある〈斜里町立知床博物館〉に
学芸員として勤め,その後も斜里町職員として自然保護の仕事をして
おられる。いわば,知床の自然を肌で知り尽くした知床マンである。そ
の増田さんが,知床の山の中で見た野生動物との出合いを生き生きと
紹介している。野生動物たちの息切れが聞こえてきそうな本である。
 話は1月から始まる。気温は氷点下23度。厳冬の中でも,雪の下にあ
る草をはぐくむエゾシカがいる。雪の上には様々な生き物の足跡が行き
交う。冬とはいえ,いろんな生き物が活発に動き回っている。2月は樹の
上や樹洞に生きる動物たち,3月は氷の下に生きる生き物たち。〈天使〉
とまで言われているクリオネも生きるためには他の命を食べる。博物館
には時々,弱った動物が持ち込まれることがある。4月は弱り切ったアザ
ラシの子どもの飼育日記,5月は親と離れたエゾウサギのあかちゃん飼育
記録,6月は樹洞にすむシマフクロウの調査記録と学芸員ならではの仕事
が続く。
 8月はヒグマとの対面,「ヒグマはあわてるようすもなく,鼻先を空に向けに
おいをかぎ,ゆっくりと姿を消していった」とある。危険なヒグマにしているの
は人間に責任があるようだ。9月のサケの話も壮絶。しかし,多くのサケの
死は山に棲む生き物のたくさんの命を支えている自然の摂理。こうした話
が12月まで進む。「オットセイが山を登る」という不思議な話で12月の幕が
下りる。
 厳しい自然に育まれた生き生きした野生動物の世界が堪能できる。                                                           2007,1刊  700円

新版ゴミから地球を考える』
       
(岩波書店ジュニア新書)    八太昭道著 岩波書店
 初めに, 地球上の物質の不変性解き,今はもう「人類が地球で生き続け
ることを困難にするような事態が着々と進行している」と強調している。知
恵ある人間の決断がせまっていることが読むにつれて感じられてくる。
 「ゴミから生活をみる」から具体的な論証がはじまる。包装容器などの問
題はしばしば耳にするが,「消費期限」や「スーパー方式」,「自動販売機」,
「核家族」,「過剰宣伝」なども一体になってゴミ社会を形成していることが
分かる。
 ここで, 著者は過去の「ごみ処理の歴史」をふりかえる。「平城京もゴミ問
題で滅んだ」「平安京が長く続いたのはゴミ処理のおかげ」という著者の仮
説も納得がいく。東京のゴミ戦争の事例から多くの先進的行政の取り組み
も紹介される。続いて「リサイクル産業で地球を救えるか」を取り上げ, 技術
更新に期待しながらリース方式に言及,「循環型経済社会をつくるにはどうし
たらいいのでしょうか」と問いかる。後半は, 著者のめざす「ごみゼロ社会の
理想モデル」を描く。西暦3000年の地球は吉と出るか凶と出るか,現代の人
類にかかっている。
 最後は, 一人一人が地球人としての「政治人間」として未来を見据えた判
断ができることの重要性を解く。「破滅に向かう未来に目をつむる」か「未来
に向けて納得のいくひびを送る」か。さらに「ごみゼロ社会」の実現に向けて
技術革新を担う理数系教育の重要性を強調して終わっている。
 こ事実を冷静に受け止め未来を展望している本である。 
                              2006,11刊 780円

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